第14話 本松永一(建築士)[3]
「でも、何が起こったの? なんか核爆発だの核ミサイルだのって情報が飛んでるけど」
けれど、出てきたということは、
「ブルドーザーが
「ブルドーザーが陥没」は正確な表現だろうか、と永一氏は思ったが、訂正することもないだろうと、話を続ける。
「なんか、図面に出てない地下室があったらしいんですわ。そこがなんだか
「まあ!」
嵯峨野さんの奥さんは驚いてみせる。
「
いちおう、専門家として確認をしてみる。
「ぼくの見た図面では昭和三十年建築ってなってましたけど?」
「その前に立派なお屋敷があったのを、西原さんのおじいさんが建て直したんですよ。なんでも、このあたりは畑の作物の育ちが悪いからって牛を飼ってらしたんだけど、まわりがこんな家ばっかりになって、苦情とか来るようになって、それで、その牛小屋のところを売り払って建て替えたんだって、うちのおばあちゃんが言ってて、いや、ひいおばあちゃんかな、いまから言うと」
いまからというより、だれから言うと、だろう?
たぶん、このおばさんの子どもから見て、なんだろうな。
「だから、その前のお屋敷は、そうねえ、いつできたものか。明治とか、もっと前かも知れないよ」
江戸時代の屋敷ならば秘密の地下室を持っていてもふしぎはない。
江戸時代の屋敷跡で工事していて、その時代の地下の抜け道が発見されたなどという話は、たまに流れてくる。
だが、この煤は?
ふざけて書いているのかも知れないが、ともかく核爆発と間違われるくらいのきのこ雲を作った、煤と灰は?
「あの、父に連絡は?」
「わたしがやりましょうか?」
「ああ。いえ。私から連絡します」
永一氏が答えた。
悪い人ではないが、気むずかしい人だ。直接に連絡しないとまたそれでひと
そうでなくても、悶着は避けられなさそうなのに。
「何か話し合いが必要だったら、よかったらうちを使ってくれません?」
嵯峨野さんの奥さんが言った。
「ここで立ち話ってのも不便でしょうし、うちならばテーブルも椅子も無線LANも使えるし、うちも息子二人がひとり立ちして部屋が空いてますから」
「ああ、でも、それは」
本松永一氏は迷った。
一人ならば断る。
けれども、佳愛さんと横川博子さんと、どう見てもまだ二十代の女性を二人、ここで立ち話というのに巻き込んでいいのだろうか。
クリーム色のポロシャツと白いシャツを着た若い女性を、この煤かほこりのなかで薄汚れさせていいのだろうか。
「じゃ、おことばに甘えなよ」
現場監督が無骨な声で口をはさんだ。
「現場はおれたちが見ててやるからよ」
「ああ、じゃあ」
永一氏はおばさんに頭を下げた。
「すみませんが、おことばに甘えまして」
と言う。
「じゃ、すみませんが」
と、天羽佳愛と横川博子の二人を誘った。
振り向くと、二人の若い工員が
もうちょっと横川博子とおしゃべりしたかったのだろう。線量計の話だけでなく、ほかの話とかを。
でも、この際、しかたがない。
これは仕事の話なのだ。
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