第13話 本松永一(建築士)[2]
それよりこのままいじり続けているとスマートフォンの表面が
かわりに、
「いや。ここではきのこ雲かどうかはわかりませんから」
と言う。
「ああ、下から見てますからね」
博子がはずむように言った。いつも元気だ。
「でも、市役所からはそんなに大きくは見えませんでしたよ。しかもすぐに消えましたし、火災とかではないってすぐわかりました。電話がかかってきたら心配ないって対応するようにって、課長が指示を出してくれました。あ、そうそう」
と、その核爆発とか原発事故とか言っていた若い工員に、横川博子はぬっと肩を寄せた。
いきなり、同じくらいの年頃のおねえさんに肩を寄せられて、若い工員がぎくっとする。
頬が赤くなったかどうかは、状況が状況なので、わからない。
「これ、
肩を寄せた横川博子は、ハンドバッグから何か四角い黒いものを取り出した。そこからするするとコードを延ばし、その先のほうを左右に振って見せる。
薄汚れた金髪イケメン君ものぞき込んだが、やっぱり腰が引けている。
「ね?」
「線量0・10から0・12マイクロシーベルト、一時間あたり。うぅん。たしかにこのあたりの平均よりはちょっと高いけど、完全に通常の範囲内。核爆発とかメルトダウンとかあったら、こんな線量計なんか振り切れちゃうから。だから、心配してるお友だちには核爆発なんかじゃないって返事していいと思う」
ふふん、と笑う。
工員たちを手玉に取ってしまった。
いろんな意味で。
このひとに最初に連絡を取っておいてよかった。
さて、何から手をつけようか。
そこに派手にバイクの音がして大型のバイクが敷地の前に横付けになった。
ここの家を発注した
やっぱりこの状況ではまぶしいまっ白のシャツを着ている。ああ、お世話になっています、というような会話が永一氏や監督や工員二人とのあいだにあり、横川博子ともこんどは無事に名刺交換が成立した。
「え?
「あ、そうですそうです」
「あそこからちょっと東芳須通りを行ったところが、わたしの生まれた家なんです!」
「え? 宮永に住んでらっしゃるの?」
「いえ、いまは違うんですけど」
会話も成立している。
横川博子もそんなに背の高いほうではないが、佳愛はもっと小柄で、そのかわりその小柄な体に元気が詰まっている感じだ。
さらに、そこに、黒っぽい大きな影が、入り口の短い坂を上がってきた。
「あっ。
と佳愛が気がつく。
ここのお向かいの家の奥さんだ。これを太り気味というのならお世辞で、でっぷりと太っていて、黒のTシャツを着て白いエプロンを巻いている。それで白くたっぷり塗った厚化粧だ。
佳愛はぴょんと飛び上がると、その嵯峨野さんの奥さんのほうを向いて頭を下げた。
「このたびはご迷惑をおかけしました」
「ああらいいのよ。いちばんの災難はあなたたちだもの」
ずいぶん、ものわかりがいい。
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