臨時パーティー結成

 声を掛けてきたのは、俺よりも頭一つか二つ分は身長の低い、小柄な少女だ。

 活発そうなくりくりした目で俺を見上げ、彼女が言う。


「え~と、ネココです。その、アタシたち三人で組んでて」


 振り向いた少女の背後には、二人のプレイヤーがいた。

 中性的な少年と、髪の長い少女型のアバターだ。


 俺は二人に向かって改めて自己紹介した。


「こんにちは! 俺の名前は旅がらす! レベルは23で、職業は旅人! 得意な魔法はテレポートで、普段は喫茶店を経営してるよ! 好きな言葉は友情かな! 誰でもいいから仲間になって欲しいな! よろしくね!」

「定型文!?」


 イケメン君が突っ込み、長髪ちゃんの方は若干引き気味だった。


「ええと、オレがユーリで、後ろにいるのがマリエル。よろしく」

「よろしくね! 俺の名前は――」

「それはもういいよ!」


 いい突っ込みだ。

 小さいのがネココ、イケメンがユーリ、髪の長いのがマリエルか。


 三人を代表するように、ネココ嬢が手を上げる。


「お兄さん、一人だよね? アタシたち三人なんだけど、一緒にどう?」

「ふむ」

 

 装備からして、三人組は見るからに初心者だ。

 こちら側に呼びこまれるプレイヤーは、ティンカーベルの独断だとされている。当初は高レベルのプレイヤーや罪科多数のろくでなしばかりが選ばれていたらしいが、最近ではゲーム歴の浅いプレイヤーも増えてきているらしい。


 おそらく人手が要るタイプのイベントだろうし、俺としてもパーティーを組むのはやぶさかではないが……。

 初心者か。どうしよう。三人が足手纏いと言うつもりはない。むしろ逆だ。基本的に俺は足を引っ張るタイプのプレイヤーなので、出来れば安心して介護してくれるメンバーが望ましいのだ。


 そんな俺の思考を裏付けるように、アナウンスが告げた。


『Bad Status!』

『状態異常が発生しました』

『称号:〈薬物中毒〉の効果が発動しています』

『解消条件:薬物系アイテムの摂取』


 いつものヤツだ。

 ちょっと気を抜くとこれだもんなー。

 俺はポーションを取り出して、ごくりと飲み干した。


「え、なんで急に?」

「ああ、気にしないでくれ。俺、定期的にポーションを摂取しないとHPがガンガン減っていくんだ」

「依存症!?」


〈薬物中毒〉の称号持ちを見るのは初めてかな?

 おっと、何やら胡散臭いモノを見るような目だ。


「……こ、この人、大丈夫? 教導隊の人たちに出来れば経験者と組みなさい、って言われたから声掛けたけど」

「……ヤバいんじゃないかな。よく見ると目が濁ってる」

「……けど、わたしたちだけじゃ不安だし」


 どうやら俺の存在に不信感を抱いたらしい。

 なかなかに勘の鋭い初心者だ。人を見る目は持っているようだな。


 このままだと普通に「やっぱりごめんなさい」されそうなので、俺は先手を打って話を進めた。


「お三人さん、職業は?」

「え? 学生だけど」

「ん?」

「高校生だよ」

「ちょっ」


 リアルの職業は聞いてねぇ!

 ネットリテラシーの概念がないの!?


「ネ、ネココ、ちょっと下がってろ。えっと、ジョブだっけ? オレが傭兵でネココが双剣士、マリエルが僧侶だよ」

「お、おお。そうか。なんていうか、大変だな」

「いや、まあ……」


 眉をハの字にするイケメン君。

 良かった。僧侶っ子に手を引かれ、不思議そうな顔をしているチビッ子以外は、まともな意識を持っているようだ。


 前衛が二人、後衛が一人。

 火力が若干物足りないが、バランスは悪くない。


 ちなみに俺はどんなパーティーにでも組み込める万能型だ。全ステータスが満遍なく低いからな。いてもいなくても変わらない、刺身のつまのような存在なのだ。


「俺は旅人だ。多少はデバフも使えるし、サポーターとして使ってくれ。よろしく」

「うん! よろしく!」


 臨時パーティーが結成された。

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