火のない処に立つ煙
イベントに参加することになった。
場所は第三の町、ルガンマ――通称『クソ田舎』である。
運営が絶賛音信不通の現環境ではあるが、それでも何故かイベントは不定期に発生する。大体は名前を変えただけで似たような形式のものだから、時限式で最初からサーバーに組み込まれていたのかもしれない。
あるいはリアル側のゲームと連動しているのかもしれないが、確かめようはない。
ともあれ、イベントである。
きっかけは言うまでもなく、数時間前に受けた幼女陛下の命令である。
「ちょっと攻略組にちょっかいかけてきてください」
「あいあいさー」
基本的にこのゲームの攻略とはマップの開放だ。
攻略組は未開放エリアの町の周辺に拠点を置き、そこで活動している。
というわけで手っ取り早く最前線にテレポート、マップ開放の為にあれこれ頑張る攻略組の連中をストーキングして、何やらイベントのクリアを企んでいるとの情報をゲットし現在に至る。
情報の信憑性は疑う余地もない。
本人たちに直接聞いたからだ。
まあ、攻略組がたむろしてる場所に知らないヤツが現れたら普通に見つかるよね、と。
最初は物陰から様子を窺っていたのだが、あっという間に怖いお兄さん方に囲まれ、「オメー、暇そうだな。ちょっと一仕事してこいや」と優しくお願いされた結果、イベントに参加する運びとなった。
なんか二重スパイみたいな感じになっている気がしないでもないが、幼女陛下の性格からしてこれくらいは織り込み済みだろう。
不人気マップのルガンマだが、何だかんだでイベントとなれば人が集まる。
普段は閑散としているルガンマの広場に、今はそこそこのプレイヤーが集まっていた。
本格的な装備のガチ勢から、ジャージと変わらない格好でうろつくニートっぽいのまで、様々な層のプレイヤーがいる。
この手のイベントは長くても一日以内に終わるし、参加すれば何かしらのアイテムが手に入るからそれなりにコストパフォーマンスがいいのだ。
上位入賞は攻略組から派遣された面子が独占するだろうが、参加賞だけでも貰えれば損はない。
俺としても、拒否すればライン作業に逆戻りだから是非もない。
しかし、一つだけ問題があった。
具体的なルールの発表はこれからだが、イベントはパーティー単位での参加が基本だ。
そして、今、俺は一人でいる。
仲間が、いない。
俺はぼっちだった。
「だ、誰か……」
普段仲良しのニートどもは強制労働を課され、それ以外の知り合いも公のイベントに参加出来ない犯罪者か犯罪者予備軍ばかりだから、パーティーを組む相手がいない。
このままだと一人でイベントに突撃することになる。
別段、上位を狙っているわけではないが、ぼっちで活動し、周りから哀れの視線を向けられるのは御免だ。
そんな俺の心境をよそに、既にほとんどのプレイヤーがパーティー結成済みだった。
これはアレだな、クラス替えしたら知り合いが誰もいなくて、既にグループが出来上がってた時の感覚かもしれない。疎外感が凄い。
こうなれば自分から動くしかあるまい。
ゲームという狭い箱庭の中だ、これだけの人数が集まれば、顔見知りも少しはいる。
俺はそこはかとなく見覚えのあるプレイヤーを見つけ、ジッと見つめた。
届け、この思い……!
「お、おい、見てるぞ。鳥類がこっち見てる」
「仲間にして欲しいのかも」
「え~、前科持ちはちょっと……」
何となく周囲を見回すと、目の合ったプレイヤーたちがさっと目を逸らした。
なるほど。
どうやら先日の公開処刑というか、公開裁判で少しばかり顔が売れてしまったようだ。
完全に腫物扱いだぜ。
直近でやったことというと、地下水道の爆破と内乱の件か……。
後者はあくまで参加者の一人だし、前者にしても名前がちょっと黄色くなっただけで、重犯罪者の証であるレッドネームに比べれば健全な一般市民と変わらないだろうに。
そもそも幼女陛下が賠償金を肩代わりしてくれたから、今となっては全て過去の話だ。どんどん幼女に逆らえなくなっていく。
まあ、前評判は仕方ない。
火のない所にも煙が立つのがオンゲーの世界だ、火も火種もばっちりの俺の噂はどうにもならない。
「ふ、ふん。別にいいけどな。ひ、一人の方が動きやすいし。一人の方が動きやすいし!」
俺の専門は転移魔法だ。
戦うにしろ逃げるにしろ、単独行動が一番向いている。
「すげぇ強がってるぞ。なんか可哀そうになってきた」
「誘ってみる……? けどメリットないよね」
「弱いもんな。ゴブリンと殴り合って負けたって聞いたぞ」
根拠もない噂を信じるんじゃねぇ!
殴り合ってねーよ、一方的に棍棒で殴り殺されたんだよ! チュートリアルでな!
現実は噂よりも酷かった。
もういい、仲間なんか要るか。
一人でもやれるってところ見せてやるよ。このイベントで活躍して見返してやる。
自分のことは自分だけが理解していればいい。
俺は孤独ではない、孤高なんだ! 誰にも媚びない一匹狼なんだよ!
「あの~」
「なにかな!?」
後ろから話しかけられ、俺は自己最速の反射神経で振り向いた。
一匹狼? 馬鹿馬鹿しい。俺は犬ですらない人間だから、一人では生きられないのだ。
一切のプライドをかなぐり捨て、俺は自分をさらけ出した。
「こんにちは! 俺の名前は旅がらす! レベルは23で、職業は旅人! 得意な魔法はテレポートで、普段は喫茶店を経営してるよ! 好きな言葉は友情かな! 誰でもいいから仲間になって欲しいな! よろしくね!」
「ア、アピールがすごい……」
全力で自己紹介する俺に、声の主が引き気味だった。
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