第18話ポテサラチーズトーストを焼きましょう
「ね、ちょっとまだ? そろそろいいでしょ」
昼前の厨房で、オーブンとにらめっこをするエルフが一人。
もう何度目になるかも分からない台詞に、私は「まだよ」と呆れ気味に告げる。
「ちゃんとじっくり焼かないと、焦げ目がつかなくなっちゃうわ。焼いたマヨネーズの美味しさはセインも知っているでしょ?」
「んんん、それはもう、あの焦げた部分のマヨネーズはまた違って新しい境地! って感じの美味しさだったけどさ……っ! こーんなにいい匂いがしているのに我慢だなンて、とんだ拷問だし!」
お皿を手に喚くセインに、作業中の火蜥蜴たちがびくっと肩を跳ね上げる。
彼らの緊張の面持ちから、四天王の一人であるセインの機嫌を損ねるのが怖いのだろうなと察せて、私はセインの隣から彼らに向けて心配ないと苦笑してみせる。
(本当、まさかセインまで厨房に来るようになるなんて)
マヨネーズの美味しさに目覚めてから、早数日。
セインは毎日たっぷりのマヨネーズを生成してくれるようになった。
ならばと私も、マヨネーズに合うメニューを意識するようになったのだけれど。
気づけばセインはマヨネーズ作りの為だけではなく、こうして調理中の厨房に乗り込んで来るようになってしまった。
我が物顔で厨房の一角に座するセイン曰く、
「だってさ、ボクが待っている間にもココでは新しいマヨネーズの料理が出来上がっているンでしょ? ならこっちで待ってるのが最適解でしょ」
うーん、恐るべしマヨネーズ愛……っ!
「それにしてもさあ」
やっぱりオーブンを見つめたまま発するセインに、目を向ける。
すると、セインはチラリと目だけで私を見下ろして、
「モソモソした芋があーんな滑らかになってさ、おまけに冷たくっても美味しいだなんて、結構衝撃だったンだよねえ。なのに今度はこんなに焼いちゃってさ、ホントに大丈夫なワケ?」
宝石のように美しい緑の瞳には、疑念よりも心配のほうが強い。
どうやらセインは、昨晩の夕食で付け合わせとして用意した"ポテトサラダ"が随分とお気に召したよう。
茹でたジャガイモを潰し、塩もみした薄切りきゅうり。
水にさらして辛みを抜いた玉ねぎと、ハムの代わりにカリッと焼いたベーコンを。
たっぷりのマヨネーズを贅沢に使って、アクセントの黒コショウと共に混ぜたのだけれど、確かにとっても美味しく仕上がった。
美味しく仕上がりすぎて、昨晩に用意した分は昨日のうちに皆ですっかり平らげてしまったのだけれど。
セインが「もうないの!? もっと食べたいのに!」と厨房に乗り込んで来たことで、今朝の朝食後に火蜥蜴たちとせっせと作ったのだ。
そしてせっかくだから、アレンジして昼食に使うことにしたのだけれど。
「私が説明するよりも、食べてもらったほうが早いと思うわ。……あ、そろそろいいかも」
「え!? 出来たの!?」
オーブンに張り付く勢いのセインを「下がって」と制して、開いたオーブンの中からお皿にパンを取り出す。
「はい、ポテトサラダをアレンジした"ポテサラチーズトースト"の完成よ」
パンにポテトサラダを乗せ、その上にチーズとマヨネーズを少々。
オーブンでこんがりするまで焼いた、その名も"ポテサラチーズトースト"!
(うーん、狐色をした香ばしいチーズに、甘じょっぱいマヨネーズの香りがたまらない!)
セインは受け取ったお皿を手に、「わあ~~~~なーーーんて綺麗なパン!」と歓喜にくるくる回っている。
と、「フレデリカ様、代わります」と声がした。サミルだ。
彼の指示で二名の火蜥蜴が手際よく焼けたポテサラチーズトーストを取り出していき、待機中だったパンを入れていく。
「ねね、我慢できないんだけど、食べていい? いいよね?」
「ええ、火傷には気を付けて」
「ボクがそんなヘマをすると思う?」
(うーん、今のセインの勢いならしそう)
心の声はそっとしまって、ふうふうとトーストを吹いたセインがあむりと食むのを見守る。
途端、セインは「んん!?」と目を輝かせ、
「なっっっにコレ……! "ポテトサラダ"の時よりもほっくりした芋にとろっとしたチーズが絡んでコクが出るし、噛めば噛むほどベーコンの塩気が合わさって最強なンだけど……! しかもさ、しかもだよ? このきゅうりがまた歯ごたえとみずみずしさを出してくれて、優秀すぎ!」
うんまあ~~~い! と声を上げるセインの顔は、幸せそうにとろけている。
(良かった、気に入ってくれたみたい)
ポテトサラダはちょっとカロリーが高いけれど、これ一つでタンパク質もビタミンも、炭水化物もとれちゃうのが魅力的。
しかもジャガイモって「畑のりんご」って言われるくらいビタミンCがたっぷりだし、不溶性と水溶性、両方の食物繊維が含まれていて、腸内環境を整えてくれるんだよね。
(レスターも気に入ってくれるといいなあ)
パパっと手軽に、を意識したサンドイッチメインの昼食にしてみてから、なんとすべて食べてもらえている。
魔王とはいえ、やっぱりお腹は空くみたい。
(手を止めて、フォークを持ってっていうひと手間が面倒だったのかな?)
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