第10話お父様との会話に成功しました!?
(ああ、柔らかいお肉……! 甘じょっぱいリンゴバターソースも合う!)
子供の顎でも疲れず飲み込める……!
感動にあむあむと食べ進め、忘れてはならない、お供のパンに手を伸ばす。
さすがにパンを焼くまで手は回らなかったので、おなじみの硬い穀物パンなのだけれど。
刷毛でさっと軽くお水を塗ってからリベイクしてもらったおかげか、手で割るとほくほくとしていて、いつもよりもふっくらしている。
(うまくいってよかった。前世では霧吹きでしゅっとしていたから)
ちぎった一口大のパンを、肉汁と合わさったリンゴバターソースにひたりと浸してから、口内へ。
(はい、美味しい……!)
じゅわっと舌状に広がる感覚もたまらない。
味もさることながら、ソースをすったおかげでパンもしっとりと食べやすくなるし、いいことずくめ!
「おいしいですね、お父様」
ほう、と頬に手をやりながら顔を上げる。
と、視界に飛び込んできたのは、じっと私を見つめるレスター。
手元にあるお肉も、パンも。
どちらもまだ配膳された時のまま、手を付けられた様子はない。
(え……もしかして、怒らせちゃった!?)
ど、どどどどうしよう……!
お肉には塩と胡椒しか許せない派だった?
ううん、こんなに私を凝視してるってことは、原因は料理じゃなくて私の態度が気に入らなかったり――?
「……そうか」
「っ!?」
途端、レスターがナイフとフォークを持ち、お肉を食べ始めた。
最初の一口目で一瞬だけ手が止まったけれど、おいしいも、まずいも、一言も発さずに黙々と食べ進めていく。
半分ほどを平らげると、おもむろにパンを手に取った。
私がパンだったら震えあがっているだろうほどにじっと手の中のそれを見つめると、みしりとちぎり、肉汁と合わさったソースに浸してあぐりと食む。
「…………」
「…………」
(やっぱり反応ゼロなんだ……っ!)
ううん、焦りは禁物。
食べてくれてるってことは、少なくとも口に合わなかったわけではないし、最初にしては上出来で――。
「食べないのか?」
「! ごめんなさい、お父様。一緒の食事が嬉しくて、つい……!」
「…………」
(私が作った料理だってバレてないよね!?)
咄嗟の言い訳に内心ひやひやしながら、慌てて視線を落とし、食べることに集中する。
時々レスターの視線を感じるけれど、声をかけられることはない。
カチャカチャと微かな陶器音が響くだけだけれど、怒っているような気配はないし、ご飯が美味しいからか沈黙も気にならなくなってくる。
(ふう、おいしかった……)
お皿が空になったその時、再びサミル達が現れた。食後のデザートだ。
綺麗に並べられているのはスライスしたリンゴ。
もちろん、ただ切っただけのリンゴじゃない。
(待ってました! りんごのコンポート、シナモン風味!)
カットしたリンゴにお砂糖とお水、それからシナモンスティックを加えて、くつくつ煮るだけ。
あまーいリンゴとシナモンの相性は言わずもがな最高だし、シナモンの抗菌作用は風邪の予防も期待できるほどだから、高熱を出したフレデリカの身体にもぴったりなデザート!
「いい香りですわね、お父様」
にっこりと微笑むと、レスターは私を一瞥した後にお皿をじっと見つめる。
それから再び私に視線を戻し、相変わらず感情の読めない表情で見つめてくる。
(あ、もしかして、私が食べるのを待ってる?)
はっと気が付いた私は新しいナイフとフォークを手に、柔らかなリンゴをすっと一口サイズに切って、はむり。
(ああ~~~~幸せの味~~~~っ!)
しゃくっと残る歯ごたえと共に広がる甘さと、砂糖と煮ても負けないしっかりとしたリンゴの香り。
シナモンがまた絶妙で、パクパク食べ進めてしまう。
(今日は時間がなかったけれど、アップルパイも食べたいし、アイスとか作れたら絶対合う……!)
私にとっての甘味は最高の癒し。
食事の改善はもちろんだけれど、お菓子作りもいっぱいしたい。
だってここなら予算なんて気にせず、食べたいものを作っていいのだもの!
ほう、とコンポートの甘さに癒されながら、これからの楽しい計画に浸っていると、
「……今日は随分と、機嫌良く食べるんだな」
「へ?」
(は、話しかけられた!?)
跳ねるようにしてぱっと顔を上げる。
レスターは既に私ではなく自身のコンポートへと視線を移していて、フォークで刺して一口で食べてしまう。
(ど、どうしよう、なにか返事したほうがいいのかな)
でも、変に答えてうっとおしいと思われても嫌だし……。
(えーい、せっかくの会話のチャンス。一言くらいなら平気でしょ……っ)
「一人よりも誰かと食べたほうがより美味しく感じますし、お相手が大好きなお父様なんですもの。嬉しくて、機嫌も良くなりますわ」
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