第5話皆でほっこりスープをいただきましょう
食べるたびに、お腹の底がほっこり温まっていく感覚。
夢中になって食べていると、あっという間にひと皿を完食してしまった。
(どうしよ、まだお腹空いてる感じがする……)
「……もう一皿、食べてもいいかしら?」
顔を上げサミルを見遣ると、
「え、あ、はい! どうぞいくらでも!」
「……フレデリカ様」
ナーラは少し腰をかがめ、
「食欲がおありでしたら、パンも少々ご用意させましょうか」
「え? いいの?」
と、今度はサミルが頷き、
「すぐにご用意します」
(じゃあ、今のうちにおかわり貰ってこようかな)
いそいそと立ち上がった私は、再びスープをお皿に盛る。
(あ、パンをもらえるなら)
「ここにオリーブオイルってあるかしら? ほんのスプーンひとさじでいいのだけれど」
火蜥蜴のひとりが「はい! ご用意します!」と頷いてくれたので、私はスープを手に先ほどの席に戻る。
「フレデリカ様、お待たせしました」
サミルがお皿をコトリと置いてくれる。
乗っているのは、切り分けられた硬そうな穀物パン。
うん、そうだった。ここではこれが"パン"なんだよね。
「オリーブオイルもご用意できました!」
小さな小皿にいれられたオイルは、記憶にある香りと同じ。
私は二人に「ありがとう」と礼を告げ、スプーンですくったオリーブオイルをスープに回しかける。
「ふ、フレデリカ様。スープにそのままかけるのですか?」
驚いたように尋ねるサミルに、私は「ええ」と頷いて、
「オリーブオイルで炒めた野菜でスープを作ってもいいのだけれど、こうして仕上げにかけると風味が飛ばずに味わえるの。ここに、ちぎったパンを浸して……」
たっぷりスープをすったパンを、一気に口に!
「んん~~~~~っ!!」
こっちもたまらい美味しさ……っ!!
柔らかくなったとはいえ、パンのおかげで食べ応えアップ!
しかもオリーブオイルのおかげでコクが増して、穀物パンにも野菜スープの出汁が負けてない!
(パンを浸して、スープを味わったらスプーンで具材を楽しんで……)
はあ、満たされる……!
ほう、と息をついて、至福に浸りながら水をひとくち。
すると、「あの……」とサミルが遠慮がちに手を上げ、
「フレデリカ様。お許しいただけるのでしたら、俺達もスープをいただいてもよろしいでしょうか」
「へ? ご、ごめんなさい。皆の食事もまだだったのね……!」
「いえいえいえ違うんです! その、あのように食材がたっぷりなスープは初めて見たものでして! それに……その、あまりに美味しそうで……」
(たしかに、フレデリカの記憶でこういうスープは出てきたことがないかも)
「ええ、もちろん。たくさん作ってしまったし、よかったら皆も食べてくれると嬉しいわ」
にこりと笑んだ途端、他の火蜥蜴たちが「やったあああ!」と両手を上げて飛び跳ねる。
「あ! お前たち! ほこりが立つだろ!」と戒めるのはもちろん、サミルで。
「あ、ナーラも貰う?」
「……お許しいただけるのでしたら」
「もちろんよ! サミル、ナーラの分も貰えるかしら」
「ええ、承知しました」
火蜥蜴たちが我先にとスープを奪い合うのを、サミルが「ほら! 順番に! 皆に行きわたるようにだぞ!」と整列させるのを横目に、私は残っているパンを手でちぎって「これはナーラの分ね」と取り分ける。
「よろしいのですか?」
「ナーラの負担にならないのら」
「……ありがとうございます、フレデリカ様」
(うーん、やっぱりナーラって可愛いなあ)
恥じるようにして視線を下げるナーラをにこにこと眺めている間に、サミルがスープを持ってきてくれた。
火蜥蜴たちも、思い思いの場所に座ったり立ったり。
ナーラはふわりとゆれる湯気をじっと見つめてから、そっとスプーンをスープに浸す。
ふーふー。小さく開いた唇で息を吹きかけてから、はくりと食まれたスープ。
「……っ!」
ナーラの黄金の瞳が見開かれる。
「ど、どう……?」
(私にとっては美味しいけれど、この世界では口に合わないってことも……)
そんな不安が過ったけれど、即座に杞憂に終わった。
ナーラの頬が赤く色づく。
「これが、"美味しい"という感覚なのですね」
「え?」
「私達の知っている"スープ"は、色のついたお湯だったようです」
(わ、わあ、なかなか辛辣……)
調理を担当してくれている子たちの眼前で、とも思ったけれど、正直、私も同じ感想だったから強く否定はできない。
それに、同じくスープを食べた火蜥蜴たちからも、
「これがスープ!? メインでいいでしょ!」
「野菜がとろとろ! 甘いー!」
と、感激の声があがっている。
(なんだか前世を思い出すなあ)
いただきまーす! と声を上げ、配膳された給食を食べてくれる子供たち。
脳裏に浮かんだ光景に、笑みが零れたその時。
「――フレデリカさまあああああああ!!!!!」
バーンッ!! と勢いよく開かれた厨房の扉。
ボタンの掛け違えたシャツにシンプルなズボン。
乱れた緑色の髪もそのままに、肩を上下させる男性の顔は疲弊の色が濃い。
「ほ、ほんとにお目覚めになられたのですね……っ!」
うるうると潤んだ茶褐色の瞳に、フレデリカの記憶と小説の情報が合致する。
(シドルス・ベルク……!)
ナーラの話では、フレデリカの高熱を治そうと治癒魔法をかけ続け、熱のひいた今朝方にやっとのことで休めたって話だった。
(お礼を言わないと)
「シドルス――」
ぐるるるるるる!!
「!?」
(お、お腹の音!?)
咄嗟にお腹に手をやってしまったけれど、響いた音は私のものじゃない。
刹那、シドルスがしまった、という顔をした。どうやら音の主は彼だったみたい。
察した私はふふ、と笑みを零し、
「よかったら、シドルスもスープはいかがかしら?」
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