(75) 月と塔-3

心が騒いで落ち着かない昂揚感と、内側から突き上げて来る衝動に駆られながら、変容していく思いが魔女と全てを繋いでいる。



"学園"下層を抜けた裏手、一人の魔女が、巨樹が連なる並木道を華やかに彩ってゆく。魔女は鮮血の様な髪を激しく振り乱しながら、滴る汗をものともせずに、鎚鉾を振り回し纏め上げた。色鮮やかな落葉が鎚鉾を振り回すたびに舞い上がり、その間から石畳が顔を出す。色とりどりの葉がはらり、はらりと舞い散る中で、魔女は声にならない祈りを込めて、ずっと何かを願っていた。



自分が傷付いていく様に、魔女は誰しも傷を作る。けれどくよくよしていたって、それでは何も変わらない。誰もが消し去りたい過去を持っているが、過去を無くしてしまえば痛みに気付けもしないだろう。


弱さはきっと、隠し続けるものではない。どうしようもなく悲しくて寂しい苦しみの中、進む先を見失ってしまったとしても、辺りを見渡せば、優しく笑う誰かがきっと傍に居る。



笑顔が似合うと思った今日、明日はもっと笑おうと思えている。


持っている幸せへの願望が、笑顔へと変わっていき、そしていつかに福が来る。



────その言葉は、どんな人が遺してくれたのか。


天分は、持って生まれるもの。

才能は、引き出すもの。


それは魔女の背中を、そっと後押ししてくれる。



溢れる思いがひとしずく、滴る汗に形を変えて、


昨日の自分を、今日の自分が超えてゆく。



強張っていた魔女、ダーチャの顔がふわりと緩んで、


「感謝しますわ、ハルマリ様。────昨日までのわたくしとは、もうさよならですの」


寄り添っていた蝶達が、佳麗な白色へと染まっていった。

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