(66) 追憶-3

魔女、ホワイトサングリアは暗闇に目を凝らし、


「────はん、ボコボコにされないように気を付けな」


静寂で息を殺しながら蠢く、美しいもの達を見送った。


悪意は喧騒を離れていき、そこには穏やかな空気が漂っている。私はへばり付いていた恐怖と緊張から解放され、その場にぺたんと座り込んでしまった。束の間の平穏と静寂が、頬擦りしたい位に愛おしい。


彼女に聞きたい事は山ほどあったが、直ぐに言葉を発することは出来なかった。座り込んだ私に向けて、魔女、ホワイトサングリアは安心させるように語り掛ける。



「────何事も経験ってこった。良くやったよ、お姉ちゃん」



魔女、ホワイトサングリアは目を細めて、優しく微笑んでいる。彼女の笑った顔を見ると、不思議な懐かしさと優しい安心感に包まれた。



「あ、……ありがとう、ございました……」



私は掠れた声で感謝の言葉を口にすると、


「さて、いつまでもこんなところに居ても辛気臭くなっちまう」


そう言って彼女は何処から取り出したのか、風格が感じられる装飾が施された上品な箒を手で掴む。魔女の様子に目を丸くして固まっていた私に向けて、


「────まあ、手品みたいなもんだ」


魔女、ホワイトサングリアは少しおどけるように後を続けたのだった。



*



純白の魔女は箒の柄に立つ様にして、空の中を駆けていく。



心ひとつを後ろに乗せて、


鼻唄を歌う様にして、


全ての疎ましさを、置き去りにするように。



子供の様に無邪気な姿で、思い思いの線と形を描いている。




色付き始める夜明けの中で、雲の無いまっさらな青に、一筋の白が流れていった。

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