(65) 追憶-2
「────お前の勝手にするがいい。私達も、好きにやらせて貰うだけだよ」
魔女、ディクサム・ブロークンはそう言って、腹立たしさの中にはみでる笑いを浮かべている。
「愚か者の独り言と思ってくれて構わないが、何かを破壊する事でしか、得られない物もまたあるだろう?」
彼女等の世界観は、決して万人受けするものではなかったが、魔女達が持っている、その何かは間違いなく感じ取れる。誰かによっては嫌悪感を抱くかもしれないが、それはきっと、見て見ぬ振りに慣れてしまった魔女達にきっと突き刺さる事だろう。
そして魔女、ホワイトサングリアは心中を見透かしているかの様に、
「物語を紡ぐには、世界はまだ早すぎる。────精々気を付けるんだな」
彼女の瞳を覗き込むように忠告する。
魔女、ディクサム・ブロークンの軋みを上げて開いた心模様が、
「────ふん、世界など知った事か。私達は、私達のやりたいようにやる」
苦しみや叫びと共振して、言葉として放たれる。
"裂け目"に眠る深淵はひとつの物語であり、まだそれが終わりでない事を魔女達は知っていた。
それに続く彼女達の物語は、悲哀と、絶望、そして飽く事の無い渇望といった暗い淵を覗き込んで、人が残した思いを変化させながら、思いのままに綴っている。
彼女達は答えを探し続けて彷徨いながら、それでも生に執着して、反撃の狼煙をいつか上げる時が来る。
魔女、ホワイトサングリアは何やら大きな渦に巻き込まれていく様な思いを肌で感じ取りながら、
「────これ以上、何を望む?」
真摯に向き合い、魔女達に語り掛ける。
────”深淵”に魅了された魔女達は、何処か楽しそうに笑っていた。
高みを知った赤紫色の魔女は歯を剥き出しにして、
「これだから面白いのよ、魔女ってやつは」
「私は首輪のない魔女よりも、繋がれた野良がいい」
ピンク色の魔女は、何処か気怠そうに話す。
魔導書を抱え込む小さな魔女は、
「────光の中を独りで歩む位なら、闇の中を仲間と共に歩む事を選びます」
「何時でも遊びに来るといい、歓迎しよう」
そして妖艶な魔女は、私の全てを受け入れる。
魔女、ディクサム・ブロークンは余計な説明が無い程痛切で、それでも何処かに彷徨い続けている誰かに祈りを届ける様に、
「────決まっているだろう、神に喧嘩を売りに行くのさ」
────神に戦いを挑む者達は、眼差しに確かなものを宿している。
彼女達はそう言って、不敵な笑みを浮かべながら、濃い闇の中へ消えていった。
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