5.追憶

(64) 追憶-1

織り込まれた物語が、まだ終わりでない事を告げている。



────それはまるで、美しい絵の様だった。



純白の魔女の掌には、比類なき才能で磨き上げられた、燃え立つような生命の色と輝きが放たれる。七色の輝きに満ちた神秘的な掌は、異形の怪物の痕跡すら残さずに、局地的と言うには余りに凄まじい勢いで闇を広げて溶かしていった。



美麗で透明感のある白みがかった黄金のホワイトブロンドが、確かにそこに靡いている。深い闇の底に沈もうとしていた私の前に現れたのは、透き通った海のような青い瞳を持つ、純白の魔女だった。


魔女は薄茶色と赤紫色のブラウスの上から、黄金の意匠が施された純白のローブに身を包む。鍔の広い純白の三角帽子を頭に添えて、手に持つ杖には2匹の蛇の螺旋が超自然的な力を示していた。



その余りにも鮮烈で、激しくも儚い生の一瞬は、頭からかぶった忘れられない絶望を、幾重にも塗り重ねていく。



綺麗事だけでは扱いきれないその思いを、真っ向から撃ちかかりながら、


「最高には、最高を。────相変わらず、薄暗くて陰気な場所に生きてるもんだ」


純白の魔女は何の遠慮もかまさずに、ひとり笑い続けていた。

続いて彼女は異形の怪物が残していった、宝石が散りばめられた煌く指輪を取り上げると、魔女、マンダリン オリエンタルへ向けて無造作に放り投げる。


彼女は放り投げられた指輪を右手の掌で掴み取ると、その手を強く握りしめた。玩具を取り上げられたかの様に、魔女、マンダリン オリエンタルは悪意を剝き出し、


「────貴女、一体何なのです……」


どうしようも無い程の力の差を知りながら、それでも突き上げて来る憤りの感情を抑える様に語り掛ける。


純白の魔女は何処から取り出したのか、真っ赤な林檎を一口齧ると、


「通りすがりの魔女ってやつだよ。別に何も、害はない」


何処かおどけた調子で言いながら、原初の魔女、ディクサム・ブロークンに視線を向けた。


魔女、ディクサム・ブロークンは、未練と不満を気持ちの上で断ち切らず、


「久しいな、ホワイトサングリア。────もう二度と会うまいと思っていたが、お前は何も変わらないな」


「最高の誉め言葉をありがとう、お前も元気そうで何よりだ」


言葉に感情を流しながら、魔女達は挨拶を交わし合う。


魔女、ホワイトサングリアの青い瞳は乱れの無い朗らかさで私に触れて、


「────さて、古い友人との約束なんでね。こいつは私が連れていく」


止まっていた私の世界が、再び動き出していく。




偶然訪れた黒い世界で知った、他を寄せ付ける事の無い、圧倒的な白い世界。


そして私にとって、生涯最大の師と仰ぎ、尊敬と畏怖の念を抱き続ける最強の存在、



それが原初の魔女、ホワイトサングリアと私との、────初めての邂逅だった。

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