(62) 裂け目-16
一度でも道を間違えてしまえば、二度と生きては出られない。
息を切らし追い掛けても、見送った夜は遠くなる、そんな迷路の様だった。
────どれくらいそうしていただろう。
果ての無い黒だけの世界の中で、闇と一緒に佇んでいる。
何処までも続く、終わらない夜の帳の中で、────胸の奥を焦がしている。
私は少しずつ壊れ続けるその世界で、何かを探し続けている。
祈り続ける声が、その夜に飲まれても、
声が枯れ果てるまで、
在って欲しいと願う様に。
────思い出の中に閉じ込められている、たったひとつの宝箱。
胸の奥に空いた隙間に、忘れ物をしていたかの様に、
私は箱の蓋をそっと開けて、
仕舞い込んだ、記憶の欠片を握り締める。
魔女が何故、祈るのかは分からない。
けれど、もう決して、見失う事が無いように、
心が暗闇を駆け抜けて、微かな光に引き寄せられて、
例えそれが遠回りしたとしても、
夜に溶けていくその指先に力を込めて、何度でも、手を伸ばす。
────────だから今、私だけの、何かの答えを探している。
*
私達はきっと、本能的に知っている。
誰かに託された思いを、抱えながら生きている。
いつか知る、物語の途絶えたページの中で、死にゆく者達は今も祈り続けている。
さよならは物語の続きであり、また、物語を完成させるだけではない。
世界には色が付き始めていき、何処か不思議で、懐かしい匂いがした。
混じり気の無い純白の輝きを放ちながら、光すらぼやける白でも黒でもない世界で、
一人の魔女が笑っている。
誰かになりたいと、思った事なんてない。
何かになりたいと、願った事なんてない。
そんな私が、────初めて、憧れて、しまった。
その魔女はその辺に転がっている生半可な優しさを振り払い、
嘘偽りの無い手で、救いを与えてくれている。
彼女は彼女にしか紡ぐことない物語で、私に手を差し伸べる。
────今はただ、物語の声に従っていたかった。
温かさと思い遣りを表すふたつの物語は織り込まれ、そしてそれは幾億もの光の粒を作り出す。
────────そして今日もまた、この世界に希望が生まれた。
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