(61) 裂け目-15
※内容に残酷な表現が含まれていますのでご了承ください。
魔女、マンダリン オリエンタルは奈落に掛かる糸を断ち切って、腐敗の巣を前にする。彼女は大胆で恐れを知らない獣の様に、異形の前へと歩みを進め、
「────私達はもっと、我儘に生きていい。期待しているものを腹の奥まで探っていけば、やりたいことが見えて来る。それに毎日同じ料理ばかりでは、辟易してしまうのも無理のない事よ」
不敵な笑みで語り掛ける。
そして異形の怪物は魔女の感情の揺さ振りに反応して上半身を起こし、直ぐに戦闘の意思に目覚めていった。
魔女、マンダリン オリエンタルが持つ、美しく神秘を象った象徴が、掌の中で眠っている。
「────魂が潰える時、人は何を祈るのかしらね」
そしていつまでも可笑しそうに笑っていた彼女は掌を握り締めると、束縛の中で藻掻き続けている、彼女の内なる獣が解き放たれていった。
魔女は目を凝らしても焦点が定まらない程の速度の中、熱狂に我を忘れ、何頭もの犬の首をはねていく。異形の怪物は荒れ狂うが、幾つもある尾は次々と引き裂かれ、血の花弁は宙を舞った。
眼の前の
異形の怪物は焼けつくような怒りを焚きながら、苦悶の咆哮を上げている。怪物は癇癪を起こしながらも振るわれた暴力を避けると、大振りなフリルを3列に並んだ歯が引き裂いた。
「────少しは良い味を出すじゃない」
魔女は幾らかの満足感を覚える中で、大仰な素振りで右腕を目の前に突き出す。より一層速くなっていったそれは、既に悲惨な姿に成り果てていた怪物を更に赤く染めていく。
目で追う事すら出来ない魔術の反復の中で、────不意に、初めて嗅ぐ匂いなのにも関わらず、懐かしい匂いが鼻の奥をくすぐった。
刺すような痛みは、何処か温かくて懐かしい、その思いに続いている。
────そしてそれは何の前触れも無く、闇の底からやって来た。
それは冷たい手でお腹の中をぐちゃぐちゃに掻き回された様な不快感と、心臓を鷲掴みにされた様な衝撃だった。
異形の怪物は浸された闇の中、立ち込める黒煙の様に私を囲い込む。
そしてその黒い手は私を掴んで離さずに、闇の穴へと引き摺り込んでいったのだった。
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