(50) 裂け目-4
子供の頃は、何もかもが楽しかった。
絵を描いたり、魔力を形作ったりと、遊んでいただけだった毎日を思い出す。
けれども大人になっていくに連れて、自分だけが、自分以外のものになろうとしていた。自分が作り出した御粗末な物よりも、他の魔女達が作り上げた立派な物を、欲しいと願う自分がいた。
大人になったら、何でも上手にやらなければいけない。
なんでそう決め付けて疑わず、勝手に思い込んでしまったのだろう。
無力さゆえの絶望は、悲劇の結果であったのか。
周囲が変化していく事に脅えながら、けれども代わり映えの無い日々も大嫌いで。
自らを取り繕う努力なんて続けても、得る物なんて、結局在りはしなかった。
次第に自分自身を見失っていき、やがて忘れ去られていくだけだろう。
────恐らくそれは、探すような物では無いのかもしれない。
他の誰かになろうとしない、
他の誰かにならないように。
この問題の答え合わせは、
他の誰でもない自分が、きっと未来でしてくれる。
いつだって自分が、自分自身を見続けていくのだから。
*
コタダは作業の合間に手を休めると、両手の掌を広げながら、じっとそれを眺めている。
「────手を動かしていれば、きっと何かが見えてくる」
恐らく此処は、噓の通用しない世界。
どれだけ言葉で取り繕ったとしても、残した結果、それだけが全てだろう。
飽くなき探究心を抱えながら、コタダは再び作業へと取り掛かる。その表情と手付きは真剣なものへと変わっていき、妥協の無い物作りに触れながら、真っ直ぐに背筋が伸びていく様だった。
コタダは仕上げに至る全ての工程を、集中して手作業で進めていく。
誤魔化しの利かない単純な構成の中に、彼女の性格でもあるのだろう、その繊細さを取り入れる。全体の調和を上手く取りながら、必要最小限で留めた装飾品は、優し気な温かさを醸し出す。
世界は見る角度によって、様々に色を変えるだろう。
視点を変えて眺めれば、期待に胸が膨らんでいく。
この世界には、憧れが詰まってる。
立派な魔女には、未熟で到底なれそうには無いけれど。
けれども何だか、それは幸運を掃き集めてくれそうで。
コタダは自然素材のみで作られた、品のある可愛らしい箒を手にすると、
「────それはきっと、皆が素敵過ぎるからだよね」
澄み切った顔で、そっと言葉を口にした。
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