(49) 裂け目-3

別れの後には、何かが残る。


寝具に横になっても意識は途切れず、寝付く事は出来なかった。

夜が深まる中、ロゼ ロワイヤルは主塔に備え付けられた階段をゆっくりとした足取りで降りていく。魔女達が眠りに就くこの世界で、胸の奥に残った物を探りながら、改めて色々な事を考える。



魔女達は旅路の途中で、自らの過去を覗き込んで、喪失と向き合う。ある者は共に旅を続けていき、またある者は遠い場所へと旅立っていくのだろう。


いつか魔女達は旅路を終えていき、そして時代が流れていく。


魔女達は、一体何を残せるのだろうか。

そんな事を頭の中で考えながら、広場に差し掛かった時だった。備え付けられた椅子に座り込み、


「あら、ロゼ ロワイヤルじゃない。余り難しい顔をしていると、眉間に皺が出来るわよ」


「こんばんは、ロゼ ロワイヤル様」


双子の魔女達は木製のマグカップを手にしながら、上機嫌で微笑んだ。姉、ハツコイは容器を軽く掲げ上げて、妹、ナツコイは容器を大事そうに両手で持つ。


蜂蜜の優しい甘さと程良いアルコールの香りが漂ってくるそれは、蜂蜜酒の様だった。ロゼ ロワイヤルは彼女達の何処か対照的な仕草を微笑ましく思いながら、


「────お楽しみの最中、悪いわね」


横を通り過ぎようとするが、彼女達はそれを許してくれなかった。ハツコイはロゼ ロワイヤルに向けてマグカップを差し出して手渡し終えると、


「ハイ!な~んで持ってんの?な~んで持ってんの?飲み足りないから持ってんの!!────は~!飲んで飲んで飲んで飲んで~!!!」


続いてナツコイは相槌を打つ様に手を叩きながら、


「ロゼ ロワイヤル様の、ちょっといいとこ見てみたい、それ一気、一気、一気」


ロゼ ロワイヤルは小さく溜息を付くも、一気にそれを喉に流し込んでいった。ハツコイは柔らかくも悪戯めいた笑顔を浮かべながら、


「あんたの何だかんだ言いながら付き合ってくれるところ、嫌いじゃないわよ。────────まあいつかは答えに辿り着くのだから、余り考え込み過ぎない事ね。今のあんたには、分からないでしょうけれど」


それは突き放す訳でも無く、けれども答えを教える訳でも無く、何処か含みのある言い方で、何かを伝えている様子だった。続いてナツコイは穏やかに微笑みながら、


「期待し過ぎず、不安になり過ぎず、世界が広がるきっかけ位に思うのが丁度良いのかも知れませんね」


そう言って蜂蜜酒を美味しそうに口にする。ロゼ ロワイヤルはそんな2人の様子を見てやや気持ちが晴れたのか、


「貴女達が大きくなったのか、私が小さくなったのか。────全く、調子が狂って仕方ないわね」


少しおどける様に後に続けた。ナツコイとハツコイはそんな彼女の様子を目にしながら、


「大きな成果を手に入れようとして、誰もが必死になっています。けれども特別な事をしようとするから、やる前から悩んだり、進めなくなってしまうのでしょうね」


「当たり前を積み重ねると、特別になっていく。そしてその小さな揺らぎは、やがて大きな変化を呼び起こす。簡単に手に入らないものだからこそ、面白味があるんじゃない────それに物語を終えて後に残るのは、私達が集めたものではなくて私達が与えた物でしょう?」


そう言って彼女達はロゼ ロワイヤルの瞳を見据えながら、何処か面白可笑しそうに笑っていた。



彼女達は旅路の果てを、何処まで知り得ているのだろう。

けれども頭に過ったその疑問は、顔の火照りと一緒に溶け出して、胸の奥へと消えていった。

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