(46) 青い星
もう少しで、種蒔き時がやって来る。
青い花の種子は、どんな大きさで、どんな花を咲かせるのだろう。きっと皆も、花が咲く事を待ち望んでいるに違いない。それを一人で楽しんでしまうなんて、何て勿体ないのだろう。
青は聖母を象徴とする色であり、純潔の意味を持っている。
そして幸せを呼ぶ色とも言われており、この世界にとってそれは癒しの色だった。
これは教えて貰った話だけれど、────何らかの古いもの、新しいもの、借りたもの、青いもの、それら4つの物を"花嫁"と呼ばれる者が身に付けると、永遠の幸せが続くという言い伝えがあるらしい。
永遠があるのかは知らないが、きっと得られる幸福と不幸は無限大なんかでは無くて、きっと限りがあるんだと思う。そして永遠が無いと仮定すれば、幸福と不幸は、必ず交互にやって来る。
それは魔女達にとって、無限天国なのか、無限地獄なのか、答えはまだ分からない。
例え幸せであったとしても、現状で満足してしまわない様に。
不幸である自覚が無い事を、幸せだと錯覚してしまわない様に。
そして僅かな差を積み重ねていく事が、きっと大きな違いとなる。
花が咲いた日には、お母さんに知らせよう。
花が咲き誇ったのなら、種子を分けっこするのも良いかも知れない。
皆でそれぞれ育て上げて、世界を青く染め上げて欲しいと願わずにいられない。
もう少しだけ、この世界で待ってみよう。
────だから花が咲いた日には、居場所を探して、旅に出ようと思ってる。
*
柔らかな緑の草本が、音も無く揺れている。
風は振り返らずに走り抜けていき、平原をそっと撫でて去ってゆく。
────それは小さな魔女だった。
彼女はやや袖口の広いケープに身を包みながら、両手で青い花の種子が入った種袋を握り締める。透き通った白い肌は、瑠璃色の空の中でその違いを際立たせながら、どこか儚げで壊れ物の様だった。
小さな魔女は、貰った種袋をとても楽しみにしていたかの様に、丁寧に開けていく。そこには細長い紡錘形の袋果が入っており、成熟して裂開した中には、ふわりとした綿毛が付いた黒い種子が詰まっていた。
彼女は自分の庭に青い花の種子を上手に育てて、花を咲かせる事を祈っている。
そして祈りは願いとなって、世界を包み込んでいる海の星から、恵みの雨が降り注ぐ。小粒の雨は世界を濡らして輝かせていき、草本に付いた雫が輝きながら飛び跳ねる。続けて彼女が祈り終えると、青黒く長い髪を風が優しく撫でていった。
そして雨上がりに見付けた虹の欠片を眺めながら、小さな魔女がぽつりとつぶやき微笑んだ。
「────どうか願いが届きます様に」
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