(36) 知恵の実-13
魔女達は幾年もの探究の歴史を繰り返しながら、発展と繁栄を追い求める。彼女達は物事の本質を知り、未知を解明し、そして知識や技術を習得しながら、世界の真実を探求し続けている。
魔女が用いる魔術は、魔力と一種の対話をする。精神に魔力が呼応する様に、感覚、知覚を通す事によって様々な事象を手繰り寄せる。魔女達は外界の刺激や印象をそれぞれの感性で感じ取りながら、超自然的な概念として、世界の理を書き換えていくものとされていた。
食卓を後にした私達は、魔女もまばらで穏やかな"上の中庭"で勉学に励んでいる。ロゼ ロワイヤルは魔女が用いる魔術の内容や意味を解き明かす様にして、魔術の基礎、その根幹に関して語り続ける。
「魔力は人や物、身の回りのありとあらゆるものに宿っており、物質と精神、その両世界の空間を満たす様に漂っている。そして魔術は物質世界と精神世界に跨って干渉し得る力であり、私達は精神世界に於いて、今まで吸収してきたものを特定の形として魔力で再構築する。物質世界では形は重要な意味を持ち、魔力が意味を持つ事で、超自然的な現象が生ずると言われているわね」
そう言いながら、彼女は右手に炎の稲妻を形作り、
「周知の通り、世界の物質は、"火"、"風"、"水"、"地"の4大元素で構成されているけれど、そこには相性という見方が存在している。────私達は4種類の要素のいずれかに属しており、基本的に同じ要素同士は相性がとても良いとされるわね。影響し合って成長や前進、拡大出来るのが、"火"と"風"の組み合わせ。そして癒しあい、安心して一緒にいられるのが"地"と"水"の組み合わせと言われているわ」
何処か楽しそうに話を進めてゆく。そこにはカイルベッタ ウインターフロストに通ずる美しく重厚な気品が見え隠れしており、師弟関係の強い絆を感じさせている様で、どこか温かい気持ちになった。
「私はその中でも"火"に属しているわね。ちなみにダーチャが属しているのは────
ロゼ ロワイヤルの言葉を私は遮る様にして、
「待って。手の内を知らないのはお互い様なのだから、こちらも道理を通すのが筋というものでしょう?」
しかるべき手続きを踏みながら、口元へと微笑を見せる。彼女は感情的な行き違いに一瞬の戸惑いを見せたが、一呼吸おいてから話し始め、
「────そうだったわね」
そう言って淡く微笑むように納得する。
続いて魔女は左手のワンドで絵を描くようにして、魔力を形取ってゆく。
「世界を変容させる力とは、────すなわち、意思の力に他ならないわ」
それはどのような形として願いを叶えるのかは、方法や願望、対象と言った様々な要素が複雑に絡み合う。
「魔術は魔女から魔女へと絶え間なく伝えられてきたものであり、私達は感じたものを形として残してゆく。私達の思いや願いを、その輪郭が薄れてしまう事の無い様に、誰かに伝える術とする。────だからこそ、何かを作るという事は、こんなにも幸せなのでしょうね」
微笑みながら彼女はそう言うと、
「────────かもね」
私は目を合わせる様にして、精いっぱいの笑顔で笑い返したのだった。
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