(20) 出来損ないの娘達-14

それは、祈りの言葉だった。


礼拝堂の主祭壇に佇む魔女は、目を閉じ、手を組みながら、頭を垂れるようにして祈りの姿勢を取っている。


着色硝子を用いた窓から漏れる鮮やかな光は、時間帯や季節によって、その色を変えていく。その祝福された輝きは、魔女を包み込むように、美しい表情を見せていた。



魔女、ダーチャは心を開くようにして、今日も主へと話しかける。


彼女にとって、祈りとは贖罪だった。ダーチャは今日もまた、同じ過ちを繰り返すことのないように、心に、そして主へと誓う。心を悔い改めるように、穢れを清めていくように、彼女は、彼女自身の言葉で祈りの言葉を続けてゆく。



魔女は少しの間、じっと耳を澄ますようにして、


「────わたくし達、罪人のため、今も、死を迎える時も、この祈りをお捧げします」


祈りの言葉を終えたのだった。



*



祈りの言葉を終えると、彼女は押し留めていた魔力の流れを解き放つ。その解き放たれた魔力の流れは次第に形を変えながら、瑠璃色の羽根を持つ、美しい蝶達へと変わっていった。


魔女と生きる蝶は、魂の化身であり、浮遊する魂と同様に空を軽やかに飛び回る。それは再生や復活の象徴とされており、何度も姿を変えながら、成長を繰り返して美しい姿へ至るものとされていた。


ダーチャは周囲を見回しながら、にっこりと微笑み蝶達へと声を掛ける。



「皆様、ごきげんよう」



蝶は思考や感情を持たず、純粋な魂として、本能のまま生きている。それは目の前の事象の変化によって、内面の気質や意識を変容させながら、姿や色を変えていく。


寄り添う蝶の色は、それぞれの意味を持つ。黒い蝶は死者の魂の使いと言われ、現世と冥界を繋いでいる。青い蝶は幸運の訪れを意味し、白い蝶は天使の加護を賜る事が出来るとされた。


気が付けばダーチャの周囲には数多の蝶が乱れ飛び、蝶は導くようにして、魔女を目的地へと誘ってゆく。



蝶が乱れ飛ぶ様子はただならぬ事への前触れであり、


「────────上等ですわ、わたくし、丁度退屈しておりましたの」


魔女はそう言いながら、にやりと笑うようにして、蝶の後を追い続けて行ったのだった。

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