(19) 出来損ないの娘達-13

自然界に存在する全ての植物は、薬、毒、そのどちらにも成り得る。


魔女が用いる軟膏は、傷の治癒や痛みの緩和といった効能を持つ良薬もあれば、鳥や獣の姿に変化させ、他者すら殺める事を可能とする毒薬も存在する。その原料は薬草や麻薬、そして顔を背けたくなるような物まで様々であったが、魔女達は自然の恩恵を受け続けると共に、また与え続けて来た。



魔女が持つ薬草知識において善と悪は表裏一体であり、尊敬を集めるか、もしくは恐れられるか、そのどちらかに一つだった。



*



居館3階に存在する一室。

それが私に宛がわれた、調剤に使用する作業部屋だった。


シュリードゥワリカに案内される様に部屋に入ると、


「部屋の中の物は、どうぞご自由になさってください」


彼女は微笑みながら、私へとそう告げた。



部屋の中には暖炉が備え付けられており、そこには魔女の象徴とも言える大釜が鎮座する。作業机と木製の棚に並べられた器具類は使い込まれていたものの手入れが行き届いており、薬瓶や木箱には珍しく貴重な素材も多く保管されていた。



私は一通りの器具類を手に取って確かめながら、質問を投げかけてゆく。



「貴重な素材も多く見られますね、"学園"内で採取された物ですか?」


「"学園"で採取した物もありますが、その多くが譲り受けたものになります。────今ではその価値を知る者も少なくなってしまいましたが」



それは何処か物寂しさを感じるような、懐かしさを思わせるような、そんな感情が彼女の言葉には秘められていた。


続いて彼女は鞄から一枚の羊皮紙を取り出すと、手渡す様に私へと向ける。



「こちらがハルマリ様にお願いしたい調剤品の一覧となりますので、お目通しいただきますようお願いします」



私は受け取った羊皮紙に書かれた内容に目を通していく。それは魔除け草、軟膏、解毒薬等、種類や必要量は決して少ないものではなかったが、どれも取り扱いに悩むものではなく、他愛もないものだった。


私は頭の中で手順や流れを思い浮かべながら、完成に必要な期間を算出する。



「────────そう、ですね、作業環境にも申し分ありません。原料や素材調達に若干の時間を要しますが、10日間程の期間を見て頂ければ十分かと思います」



シュリードゥワリカは満足気な表情でこちらを見据えると、


「生真面目な性格なのですね、────薬学や薬草学に精通している魔女は、今では数える程しかおりません。どうかお力添えいただけますと幸いです」


私を前にして、彼女は深々と頭を下げたのだった。



*



魔女と魔女との間には、常に心が通っている。


信頼し合う繋がりは、きっと一日にして成り立つことはないだろう。

事実を受け止め、責を果たして、頭を下げる意味を知る。


何かを成し遂げるために、熱意と誠意を尽くしながら、感謝と思いやりの心を持つ。その成熟した結び付きが、貴ぶ価値を初めて帯びていくのだろう。



私は彼女に声を届けるようにして、


「少しでもお役に立てるのなら、私にとって嬉しい限りです。────それに、これも何かのご縁でしょうから」


引き受けた役目に、務め始めたのだった。

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