(21) 出来損ないの娘達-15
"学園"に滞在する魔女達は、自由奔放な者が少なくない。
掴みどころが無く、独特の感性を持つ彼女達は、いずれも謎めいた魅力を持っている。
口数は少なく、多くを語ることのない、"学園"の魔女の一人であるヤミーもまた同様だった。
番人の詰め所と呼ばれる城壁塔の最上階、決まって彼女はそこに居た。城壁の鋸壁の上に居座るようにして、吹き過ぎていく風は艶やかな髪を靡かせて、華やかなローブの裾をはためかせるように揺らしている。
彼女の瞳に移るものは、何処までも何処までも続いている、"代理戦争"によって崩壊した、世界の果ての向こうだった。
────不意に近付く魔女の気配を感じ取ったヤミーは、階段口へと視線を向ける。
暫くすると、コタダが階段口から顔を出す。彼女は魔女の姿を目にすると、どこか気持ちが軽くなった様子だった。彼女は足を進めていき、魔女の隣へと並ぶように近寄っていく。
魔女は近付いてくる者達を寛容に受け入れ、離れていく者達を決して引き止める事はない。魔女は沈黙を守るようにして、コタダの言葉を待っていた。
「ねえヤミー、私、友達ができたよ。────────でもあの方は、自分よりもずっとずっと先に居る。今のままじゃ、何も変わらない。踏み出すばかりが勇気じゃないけれど、行動しなければ何も変えることはできないよね」
コタダは言葉を一旦区切ると、強く心に決めるように、
「あの方が教えてくれたように、なりたい自分になれるように、手を差し伸べられるような誰かに、次はなりたいね」
そう言ってヤミーへと微笑んだ。
────魔女はただ、コタダの話を聞いていた。
コタダが話している間、ずっと黙り込んで、そして時に頷きながら、耳を傾け続けていた。
「それと、ヘンルーダやイノンドの自生地って知ってたりする?」
どうやら心当たりがあるらしく、"学園"の裏手方向に顔を向けながら、ヤミーは一緒に指を差す。
「……全然わかんない」
コタダにそう言われると、ヤミーは頬を指で掻くような仕草をしながら、
「────"学園"裏手、北西の丘陵地」
そう言い終えると彼女は視線を逸らしながら、何もなかったかのように居座る体勢へ戻っていった。続いてヤミーは思い立ったように、ローブに縫い付けられた小袋から包み紙を取り出すと、コタダへと向けて差し出した。
「────────ん」
その言葉は簡単で、表現は質素であったが、そこには秘めた優しさが溢れている。
────それは、"学園"に咲く野苺やベリーを摘んで作られた飴菓子だった。
「ありがと、ヤミー」
穏やかな表情で微笑みながら、ヤミーへと感謝の言葉を返す。コタダは城壁塔の階段を降りていきながら、一粒の飴菓子を摘んで口に入れると、
「私、頑張ってみるよ」
どこか懐かしく、その優しい味わいと爽やかな香りは、ほっとするような甘さで彼女の喉を潤していった。
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