(17) 出来損ないの娘達-11
私はコタダと別れるようにして、"学園"の並木道を後にする。食材や調合に用いる素材を必要分採取すると、私は居館へと戻って来た。
滞在する魔女達の食卓を支え続ける"学園"の厨房は、絶え間なく食を提供し続ける。それは季節の祭りや儀式、そして数々の宴や饗宴においても重要な役割を果たして来た。
魔女達は祭りや儀式を楽しみながら、自然と共に生きている。庭木や野花を育て、料理や菓子を作り、それら季節の手仕事に活用する。
知恵に溢れた魔女達の暮らしは決して豊かとは言えなかったが、緩やかな成長をし続ける世界と共に、それは満たされるものへと変化していった。
*
魔女、ピーチメルバは自ら厨房に立ち、大鍋で怪しげなものを沸々と煮込んでいる。
「────あら、"森"の朝は早いのね」
ピーチメルバは焦げ付かないように大鍋をかき混ぜ続けながら、私に向けて声を掛けた。三角帽子からは切り揃えた前髪と肩口までの髪の毛が見え隠れし、紫みを帯びた深赤色のケープコートは足元まですっぽりと包むように覆われている。
古くから厨房で料理を提供し続けているらしい彼女は、初日からお世話になっている、"学園"に滞在する魔女の一人だった。
「良く食べ、良く働き、良く遊んで、良く眠る、為すべきことは多くありますからね。────それにピーチメルバの料理、美味しいですし」
そう言って笑いながら、返事を返す。
私は道すがら見付けた果実や香辛料を彼女に差し出すと、続いて麦を用いた丸パンと赤みがかったスープを受け取った。
厨房の隣は、幾つかの食台が並ぶ食卓へと続いてゆく。食卓に他の魔女の姿はなく、私は適当な食台を見繕って腰を下ろした。
食事は魔女の源の一つであり、料理を食す事によって、生気を新たなものへと差し替えてゆく。私は命を分け与えてくれる食材と、料理に携わった全ての魔女達に対して敬意を払い、感謝の言葉を口にした。
「いただきます」
私は木匙を使ってスープを口に運ぶと、豊かな香りと濃厚な味が口いっぱいに広がっていく。"森"とはまた違った風味や味わいは、食べることの楽しさを思い出させてくれるような、そんな優しい料理だった。
私が料理に舌鼓を打ちながら、もう一杯同じものを注文するか頭を悩ませていると、
「ちょっとあんた、そこ私の席なんだけど」
「────お姉ちゃん、少し落ち着こうよ」
小柄で可愛らしい2人の魔女を、顔を上げて目の当たりにする。魔女達は容姿や雰囲気も良く似通っていたが、彼女達の表情は似て非なるものだった。
双子の魔女の姉は、冷ややかな視線を向けながら、いつまでもいつまでも、私を見下ろし続けていた。
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