(16) 出来損ないの娘達-10
本来警戒心が強く、注意深い動物達は、対面に姿を現すことは余りない。新たな気配を一早く感じ取った動物達は、皆散り散りになるようにして去ってゆく。
「────どうか、良い一日を」
動物達に別れを告げると、私は気配の正体へと目を向けた。
私よりも年齢は一回り程下であろう、その可愛らしく小柄な魔女は気まずそうな顔をして俯いていた。やがて自分を奮い立たせるようにして私に向き合うと、頭を下げながら謝罪の言葉を口にする。
「……ご、ごめんなさい」
「気にされる事はありません、動物達もそれぞれの住処に戻った事でしょう」
私は彼女を気遣うように応じると、座っていた姿勢を起き上げるようにして彼女へと向き直り、
「それに私も、余り遊んでいては怒られてしまいますしね」
そう言って、笑った。
「そう言えば挨拶が遅くなってしまいましたね。"森"から参りました、ハルマリと申します」
私は会話を続けるようにして挨拶を済ますと、可愛らしい魔女は思い至ったように目を見張る。
「"森"には秀でた魔女が住んでいると、噂で聞いたことがあります。私は"学園"に滞在する魔女の一人ですが……、私の事はコタダとお呼び下さい」
「では、私の事はハルマリとでも」
コタダは私の顔色を伺うようにして、こちらの様子を意識しているようだった。周りの目を気にする事が癖になっているような、嫌われる事に対して敏感に反応してしまうような、表情には微かな緊張が滲んでいる。
「そう緊張される事はないでしょう、コタダも私も、同じ魔女なのですから」
彼女は一瞬たじろいだように、数回瞬きをしたのち、
「……そうだと良いんですけどね」
そう言って彼女は、無理に機嫌を振る舞うように、取り繕うようにして笑った。
表情や声色を交わす事によって、言葉以上に雄弁に、相手の喜怒哀楽といった感情を教えてくれる。そこには会話からしか、伝わらないものがあった。
私は沈黙を壊す様に、
「野生のヘンルーダやイノンドを採取できる場所を知っていますか?まだ"学園"の土地には明るくないものですから」
声を掛けるようにして、彼女からの返事を待つ。
「……ヤミーという魔女なら、何か知っているかもしれません。後で確認しておきますね」
小さな魔女は、どことなく和らいだ喜びが沸いたような様子で、柔らかく微笑んだ。
────"森"に生れ落ちてから、28年の月日が経つ。
「私の初めての友達ですね」
私にとって生まれて初めてできた友達は、照れたような仕草をしながら、はにかむように笑っていた。
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