(13) 出来損ないの娘達-7
上層と呼ばれる"学園"の階層には防備施設である主塔が設置されており、その4階に存在する居室の中には1人の魔女の姿があった。
夜も更け、静けさだけが居座る中で、ロゼ ロワイヤルは両の手の平で丁寧に魔力を形づくる。青白く発する魔力の粒子が散らばる数々の点を、巧みに操りながら渦巻く球体の線へと変えてゆく。滴る汗を拭うこともせず、ただひたすら愚直に取り組むその姿はとても厳かで、心引き締まる様子だった。
聡明で才能に満ち溢れた魔女は、魔術に対する研ぎ澄まされた感覚と、豊かな創造性を持つ。精巧ではあるが、決して飾ることのない、そんな彼女の際立った魔術は、"学園"の他の魔女達よりも一段と高い位置に置いていた。
祝福された才能は、"学園"の中で開花してゆき、たゆまぬ努力と挑戦を続ける魔女の姿には、揺るぎない決意と覚悟が宿っている。
それが、カイルベッタ ウインターフロストに師事する"学園"首席、ロゼ ロワイヤルという魔女だった。
*
彼女が少し長めの息を付くと同時に、手の平の魔力は散り散りとなって消え去っていった。長い髪が汗ばむ肌に纏わりつくが、日課を終えた疲労感がそれをかき消していく。
ロゼ ロワイヤルは居室の隅に立て掛けていた箒を手に取ると、柄に腰を掛ける様にして、宙に浮き屋外へ飛び立っていった。
魔女は、"学園"で最も高い場所に位置する時計塔を目指して飛んでゆく。人と呼ばれる生き物が建築したとされる、"学園"最古の時計塔は、月の光が照らす中、静かに時を刻み続けていた。
彼女は時計塔の鐘楼へと降り立つと、眼前には静かに澄んだ夜景が待つ。
ロゼ ロワイヤルは、この場所が好きだった。
酷く歪んで不格好であったが、彼女にとってこの残された世界は、全てに惹き付けられる程美しく、愛おしいものだった。
それは、自分自身への労いの言葉であったのか、
または、この世界に対する感謝の言葉であったのか。
ロゼ ロワイヤルは微笑みながらただ一言、
「────今日も一日、お疲れ様」
そう発した言葉は、風に運ばれて消えていった。
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