(11) 出来損ないの娘達-5

その高名で妖艶な魔女は吸い込まれそうなほどの黄金の瞳を持ち、全てを見透かしているような、得体の知れない余裕があった。


偉大な魔女は煌びやかな装飾が施された三角帽子と、星空を模したドレスを美しく身に纒い、つやつやと潤った唇で子供のように微笑んでいる。前髪はやや丸みを持ち、腰まで届く青黒い髪は艶のある透明感で不可思議な気品を感じさせた。



「ごきげんよう」



透き通った声が、空間を抜けて響く。カイルベッタ ウインターフロストは頷くように会釈しながら挨拶すると、私の反応を窺い言葉を待った。


私は初めこそ緊張した様子だったが、遠慮する必要はないことを悟り挨拶を返し始める。



「この度はお招きに預かり光栄です、お心遣いに大変感謝しております」



続けて鞄から装飾が施された小瓶を取り出すと、両の手でそれを正面へ向けて差し出した。



「心ばかりのものですが……、"森"に自生する植物の種になります」


「あら、お気持ちに感謝しなければなりませんね」



そう言うとカイルベッタ ウインターフロストはシュリードゥワリカに目配せすると、彼女は私から小瓶を丁重に扱う様にして受け取っていく。



「タルト オ シトロンから、優秀な魔女と聞き及んでおりますよ。────────さて、周知の通り、"学園"では優秀な魔女を求めています。世界の狭間、"裂け目"というものは御存じですか?」



カイルベッタ ウインターフロストは理路整然と落ち着きを見せながら、私へと質問を投げかける。



「母から聞いた事があります。"裂け目"の深層には神の遺物と多くの遺産が眠っているが、そこには畏怖や恐怖が居座り続けている……。そして、近寄ってはならないとも……」


"裂け目"には欲や情が渦巻いており、追放された者たちが潜み棲むとされる。それは踏み入れてはならない禁足地として、母に聞かされてきた場所だった。



「今の世界は、秩序や混沌、そのどちらにも傾いてはなりません。しかし、手をこまねいていては状況が悪化するだけでしょう。そのため"学園"では"裂け目"に眠る神の遺物や遺産を調査しながら、均衡を保ち続けているのです」



一拍置くと、カイルベッタ ウインターフロストは再び話を進めてゆく。



「有能な魔女は決して多くはありません。貴女の知識と経験を見込んで、協力を得たいのです。それに今現在、"学園"には私達を除く37名の魔女が滞在しています。各々の得意分野は様々ですが、それらから見識を広めることもまたあるでしょう」



偉大な魔女は、じっと探るように私の顔を見つめていた。

私は手を握りしめるようにして、意を決するように姿勢を正す。



「僭越ながら、お役に立てるよう尽力いたします」



そう言って私は魔女、カイルベッタ ウインターフロストに向き合い、旅の続きを始めたのだった。

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