(9) 出来損ないの娘達-3

古城の入口に近付くにつれて、シュリードゥワリカは体を前方に傾けて徐々に速度を落としてゆく。彼女は上半身を後方へ向けるように移したのち、私の気持ちを見守るように、そっと背中にその手を添えた。



「ありがとうございました」



感謝の言葉と共に、私は両の足を地に付ける。目の前には指折りの名城であろう、華美な装飾を施した建物が迎えてくれる。


紅葉に染まった木々の中に佇む真っ白い古城は、幻想的な姿だった。主塔や城壁塔の先端は尖った様にかたどられ、外壁は白い石灰石で雪の様に覆われている。



「ご足労おかけして申し訳ございませんが、もう少々御辛抱願います」



頭を垂れるようにしてシュリードゥワリカはそう言うと、一本の線の上を辿るように歩き始めた。彼女の後を追うように私も続く。


跳ね橋を通り抜け、城門を潜った先には礼拝堂が姿を現す。礼拝堂の扉は静かに開かれてゆき、主祭壇へと向かって伸びる壮大な中央通路に私達は引き込まれた。


内部は白を基調とした明るい雰囲気となっており、各所に施された金の装飾は、その荘厳さを称えている。その中でも一際目を引く数十本の金属管と幾千もの管からなる鍵盤楽器は、この厳かな空間に、きっと素晴らしい音色を響かすのだろう。圧倒され、感嘆の声を小さく漏らす。



「────凄い」



やがて中央に置かれた大理石の祭壇の奥を突き進むと、主塔と居館が見渡せる広場へと通じる。広場には色とりどりの花々が咲き誇り、数名の魔女が各々生活を営んでいた。古井戸の横を通り抜けながら、興味深くその様子を歩き見る。



そして城の本体ともいえる居住空間、居館の前に足を進めた私は、緊張した面持ちで入口を跨いだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る