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 公園のベンチに座ってタバコを吸っている。外はサイレンの音がうるさく鳴り響いている。

 母のことを考えていた。あんなに嫌悪していた母が実際に死んだ時、俺は完璧にコントロールを失った。随分前から倫理観や人の心を遠にして 死んでいたと思っていたが、まだ生きていたなんて驚いた。警官隊を殺した事については全く何も思わなかった。後悔もしていない。

 俺はこれからどうしたらいいだろうか?このまま、一人でリスト通り元母親の恋人を殺し続けて食うのだろうか。

 それとも、仲間たちに戻ろうか。でもごめんだ。そのつもりはない。これからは1人で獲物を見つけて狩をする事にした。なに、きっとどうにかなると心の中で自分を慰めた。

「桐谷くん」と声が聞こえた。気づくと目の前に、高橋と水川が居た。「なあ、僕たちのところに帰ろう。疲れているだろう?」と高橋。

「ねえ、お願い。話を聞いて。このままだと、桐谷くんが大変な事になるは。お願い。一緒に来て」と水川が云うと水谷が俺に手を差し伸べた。

「なんで、そんなに、おせっかいなんだ?」と俺は云った。

「何云っているんだ?仲間じゃないか?」と高橋。

「仲間なんかじゃない」

「そんな事、云わないで」と水川「みんな、あの日から心配していたのよ」と水川は俺を憐れむ表情をして云った。

「心配ね。心配て、俺たちの存在がバレることを心配していたんだろ?俺の事なんてこれっポチも心配してないだろ。本当は?」

「そんなことはない。さあ、帰ろう。もし仮に帰らないとしたらどこに行くつもりだい?」と高橋が心配そうに云った。

「俺は、1人で狩を続ける」

「そんなの無茶だわ」

「俺ならできる。だってさっき、警官と機動隊を20人殺したんだぜ。みんなにも見せてやりたかったよ。きっと驚いたと思うよ」

 2人は俺を見て言葉を失っているのを感じた。

「そんなことを自慢することじゃないよ。桐谷くん。君は今、疲れているんだ。さあ、帰ろう駅で。駅なら見つかる心配もない。それに、みんな怒っていないから」

「みんな怒っていないって?そんなの関係ないね」

「お願い。戻ってきて」と水川。

「そうだよ。お願いだ。戻ってきてくれ」

「断る」

「じゃあ、仕方ないな。君を殺すしか方法はないようだ」

「殺すだって?お前に俺が殺せるのかよ」と俺が叫んだ時に物凄い力が身体に当たった。そして、体が宙にうき、公園の柵にぶつかった。

「いきなり、何するんだよ」

「君は危険だ。このままにしておくと被害者が増える」

「被害者が増えた?何云ってるんだ?さんざん人を殺しては喰らっておいて被害者が増えるだって?偽善もいいところだ」と云うと俺は、高橋に集中してパワーを使った。すると、高橋はパワーに耐えきれなくなり後ろに飛ばされた。

 水川が俺と高橋の間に立って云った「やめて!」と。

「水川さん。君は殺したくない。そこを退いてくれ」

「高橋さんを殺したら私が許さないから」

「そうだろうね。二人はラブラブだもんで。羨ましくて涙がでそうだ」

「そんな言い方しないで」

「本当のことを言っただけだ」

「ねえ聞いて。今なら間に合う」

「間に合うだって?俺は母さんまで死んだんだぞ。何が間に合うかだ。そんなのクソくらいだ」

「お母さんのことは残念だった。でも、あなたはまだ生きてる。それにまだ死ぬべきじゃない」

「そうかい、そんな事どうでもいい」

 すると胸の辺りに痛みを感じた。まるで心臓を何かに掴まれているかのようだ。

「ごめんなさい。もう、こうするしかなさそうね」と水川は云った。

「水川さん、君がやっているのかい?」と自分でも分かるくらい疲れた掠れ声で俺は云った。

「本当はこんな事をしたくない。でも、仕方ない。私が仲間に引き入れたんだから。最後は私がかたをつける」

「やめろ」

「それは無理よ。今すぐ降参するか、私を殺してやめさせるかどちらかにして」

 心臓の痛みが少しずつ増していった。俺は彼女に攻撃を仕掛けようと思ったができなかった。今でも彼女のことが好きなんだと思った。こんな陳腐な恋愛感情で俺は死ぬのかと思うとやるせない気持ちになったが、途中から彼女に殺されることを受け入れる事にした。今まで生きてきてよかったことなどなかった。それが彼女たちに出会って変わった。しかし、それは俺の最後のご褒美にだったに違いない。このまま、生きていても良いことなどあると思えない。一生あの地下の駅で暮らすなんてごめんだ。それに、人を殺して食うのだってごめんだ。俺はこのまま死ぬ事を選んだ。

 少しずつ死に近づいてくると色んなことが頭の中を駆け巡った。母親が父親と離婚する前の幸せな家庭、お爺ちゃんとの平穏な暮らし。鈴木とのゆるい駄話。そして、水川と出会って恋に落ちたこと。そんな、恋に落ちた相手に今殺されかけていること。なんて皮肉なんだ。少しずつ脈がなくなって行くのがわかった。もう、これで終わりか。死というのはこんなに呆気ないものなのかと思った。そして、意識が飛んだ。

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