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鈴木の部屋に行った。現場の事を吐露するために。
「そうか、玉砕したか。道理で最近のお前の心配になるくらい歌が暗い歌だったわけだ」
「まあな。明るい曲なんて作れる状態じゃない」
すると鈴木は窓を開けて、タバコを俺に渡してくれた。俺はタバコに火をつけて吸った。タバコを吸うと少し気が楽になったがほんの気休めにしかならない。
「まあ、次に行けるチャンスだと思って今は耐えろ」
「ああ」と元気なく返した。
「どうした?相当参っているみたいだな。元気出せって」
「無理だよ。やっと、いい人に出会えたと思ったのに。もう、彼女以上の人は現れないだろう」
「まあ、そんなことはないさ。女は星の数ほどいるよ」
「星の数ほど女はいても、運命の人に出会う確率は天文学的な数字だ」
「運命?占い嫌いなお前がから運命なんて言葉が出てくるとは思っても見なかった」
「今なら、運命も幽霊もカルト宗教も信じられるくらいだ」
「まあ、落ち込みすぎだよ。元気出せって。その、水川だっけ?そのうち彼氏と別れてお前のところに来る可能性だってあるじゃないか。俺が最初に言ったよな長期戦になるって」
「ああ、確かにな」
「その長期戦の間にいい女が見つかるかもしれない。元気出せって。なあ」
「ああ、逆にある時点から反動で元気が出るかもしれないな」
「そういえば、ちゃんと病院は行ってるのか?」
「ああ、行ってるよ」
「先生はなんだって?」
心療内科の先生にはフラれたことは話さなかったが近頃元気がないと云うと新しい処方薬をくれた。
「そうか、その薬は効かないのか?」
「ああ、全く」
「困ったな」と鈴木も困った表情をしている。
「ああ、困った」
「まあ、失恋に一番効く薬は新しく恋愛することだって云うしな。無理矢理恋愛するか、時間に身を任せて忘れるのを待つしかないな」
「ああ、そうするよ」
俺は少し気が楽になった。心療内科で先生と話して薬をもらうより友人に吐露するほうが効き目がある。そう思った。
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