36

 俺は、練馬区の住宅街。この前、獲物にするはずだった男を水川と一緒に監視していた。今回の獲物は前回の反省を生かして小物を狙うことにした。反社は銃や武器を持っている可能性があるのと、大事にしたくなのが理由だ。

 獲物の男は、この前と同じく8時に家に帰宅した。おそらく12時には消灯だろう。

 公園のベンチで水川と一緒に座る俺。水川は鞄からハイネケンを取り出し俺に渡してくれた。監視の時にビールを飲むのがすっかり恒例になっていた。

「乾杯!」と云うコールと共にビールを飲む。俺はビールに慣れてきた。そして美味しいと思うようになっていた。

「こないだ風邪で休んだみたいですけど大丈夫でしたか?」

「うん、大丈夫だよ」

「そうですか、それはよかった」

 そう云うと、しばらく沈黙が続いた。俺は、水川に高橋との関係が気になって悶々とした日々を過ごしていた。学校の授業中、バイト中、調査中、寝るまでの時間も、そのことで頭が一杯だった。早く楽になりたかった。鈴木が前に言っていたように玉砕したほうがいいのではないかと考え始めていた。このままだと気が狂ってしまいそうだ。

「この前の話覚えてますか?」

「この前の話って?」

「僕の話です。好きな人がいるかって」

「ああ、あれね。それがどうしたの?」

「実は嘘をついていました」

「え、そうなの?好きな人がいたんだ。どんな人」

「とても美人で、自由奔放で、掴み所のなくて、時々すごく厳しい人です」

「そうなの。それで、告白するの?」

「そのつもりです」

「すごいじゃないの。相手は誰?学校の同級生?それともバイトの子?」

 俺は勇気を振り絞った「水川さんのことです」

 しばらく沈黙が支配した。彼女の表情を見た。とても困惑している様子だった。そして、水川が口を開いた「ごめん。それは無理だわ」

「なんでですか?僕が高校生だからですか?」

「それもある。でも、私付き合ってる人がいるから」

「この前は付き合ってる人はいないて言ってましたよね?」

「そうよ、この前まではね。でも最近、恋人ができたのよ」

「誰ですか。その恋日て?」

 しばらく黙り込んでから云った「高橋さんよ」

 やっぱりか、想像していたが、思っていた以上にショックだった。

「本当に高橋さんのことが好きなんですか?」

「そうよ、私が感染した14歳の時から彼の事が大好きだった」

 俺は、頭の中が真っ白になった。言葉も出なくなるほどショックを受けた。

「ごめんなさいね。桐谷くん。別に桐谷くんのことが嫌いとかじゃないの。でも、君はまだ高校生だし、それに私は高橋さんのことが昔から好きだった」

「もし、僕が水川さんと同い年で高橋さんがいなければ付き合ってくれましたか?」

「わからない」

 俺は真顔である一点を見つめていた。それは、獲物が住んでいるアパートだ。ただ、目のやり場に困っただけだ。それに気まずかった。なんて取り返しのつかない事を言ってしまったのだろうと自分を恥じた。そもそも、水川と釣り合うはずはないそんな馬鹿な事すら考えられないで告白してしまったことに自己嫌悪を感じた。

「そんなにショックを受けないで。タイミングが悪かっただけよ。もし、桐谷くんと同い年だったら付き合っていたかもしれない。それに、そのうち私なんかよりもっといい人が見つかるとおもうよ」

「なんだかすみません」

「いいのよ。気にしないで。別に桐谷くんは悪いことしたわけじゃないんだから」

 水川に気を使わせてしまった。なんて自分は情けないんだと思った。同時に高橋に怒りを覚えた。30歳の男が18歳の女に手を出すなんてただのロリコンじゃないかと思って、高橋に関して嫌悪感を感じた。

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