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ネットニュースより、見出しはこうだ「渋谷区住宅街で謎の焼死体」。記事を要約すると渋谷区の住宅街に住む資産家の家が全焼。家のかから身元不明の死体が発見された。死体には撃たれた形跡があり、警察は強盗殺人を視野に捜査に入った、と書いてあった。それ以上の情報はなかった。事件はテレビのニュースでも報じられたが、他の殺人事件と同様にあっという間に注目を失い報道もされなくなった。
俺たちは、北山を失って暗い影を落とした。いつも、がさつだったが愛嬌のある男。特にショックを受けていたのは霧島だった。
霧島と北山はサシで飲みに行くほどの中だったらしい。霧島はあの一件以来、笑顔を失ったかのように地下鉄の駅に来てもパソコンの画面を眺めるだかだった。かける言葉も見つからなかった。
それは、みんなも同じで前のように活気が無くなっていた。杉浦も高橋も水川も俺も。
俺は北山とは2ヶ月ほどの付き合いだったが、とても落ち込んだ。彼は俺に優しく接してくれた。急な別れはとても辛い。もしかしたら、回避できたかもしれなかったのだから余計に辛い。パワーがあれば、無敵だと思っていた。だが実際はパワーを持っていようとも、物理的な攻撃を受ければ死ぬのだ。
駅のホームに皆が集まり、いつものように作業をできるようになったのは事件から1週間後のことだった。先陣を切ったのは意外にも一番ショックを受けていた霧島だった。
「なあ、みんな、北山の為にも頑張ろうぜ。北山はきっと、自分が死んで悲しんでいる姿を見たらきっとショックを受けるだろう。アイツはそういう男だった。だから、元気を出して楽しく次の獲物を仮に行こうぜ!」と少々、空回りしている感もあったが、逆にそれがよかった。みんなは彼の言葉に突き動かされた。
みんなは、北山の死を乗り越えるかのように、以前より調査に力を入れた。
数日後、俺がバイト終わりに駅に向かうと、みんなが俺のことを微笑みながら見ていた。
「どうしたんですか?みんな僕の事をみてニコニコして」
「君にプレゼントがあるんだよ。来てくれ」というと俺をバイクの駐輪場に連れていった。そこには見たことのない北山のカワサキのオフロードバイクがあった。
「これが、君へのプレゼントだよ」
「え、これ北山さんのバイクですよね?」
「そうさ、北山さんのバイクだよ」
「そんな、僕には勿体無い」
「みんなで決めたんだ。そろそろ君に新しいバイクをプレゼントしようと思っていたところだったんだ。それに、いつも水川の後ろに座るのは嫌だろ?」
霧島が笑いながら「水川は運転が荒いからな」と云った。
「うるさい」と水川。
「でも、北山さんのバイクなんて僕には勿体無いですよ」
「そんなことないさ。北山さんもきっと君が自分のバイクを乗ると知ったら喜ぶはずだよ」と高橋。
「そうですかね?」
「そうよ。きっと喜ぶは」と杉浦が云った。
「さあ、またがってみなよ。毎回あなたを乗せるの疲れるのよ。さあ、乗った乗った」と水川。
「そうさ、あんまりぐちぐち云っていると、北山の霊がキレて君の枕元に出てくるぞ」と霧島。
「わかりました。ありがとうございます」と俺がいうと、バイクにまたがった。「どう運転すればいいんですか?」
「簡単よ。まず、ハンドルをつかんで、それから左手ハンドルにあるクランチレバーを握る。足をべダルに。それからペダルを押し下げる。右手のハンドルのアクセルを回す。次にそしてクランチレバーを少しずつ離す。OK?」と水川。
「はい、なんとなくわかりました」
「本当に?じゃあ、やってみて」
俺は水川に言われた通りの手順でやった。まずハンドルを握りクランチレバーを握ってから、べダルを押し下げた。するとエンジンがかかった。振動し低い音が駅構内に響き渡った。それからクランチレバーを少しずつ離した。するとバイクが動き出し驚いてブレーキを握ると、ウイリーする形でその場で転んだ。
皆が笑った。
「危ないな。このままだと怪我してバイクも壊れるところだったぜ」と笑いながら霧島が云った。
「まあ、最初にしては上出来じゃないかな」と高橋。
「すみまえん」と俺は云った。
「まあ、怪我はないみたいだし。あとは練習ね」と水川。「もう一度やってみて。今度は、アクセルを軽めに回して」
「はい、わかりました」と俺はもう一度同じ事をした。今度はアクセルを緩く回した。すると、ゆっくりだが、バイクが前進した。
みんなが拍手した。
「覚えが早いな」と霧島。
「あなたより早くバイクを走らせたわね」と杉浦。
「うるさいな。俺は頭を使う専門だから時間がかかったんだ」と霧島は返した。
「これで、あとは、スピードと技術ね」と水川が云った。
その後、水川の指導の元で俺はトンネルに入り練習した。とても楽しかった。まるで、初めて自転車を漕いだ時のように、または新しいおもちゃを買ってもらったようにはしゃいだ。だが、少し寂しかった。これで、水川と一緒にバイクに乗れなくなると思ったからだ。それだけが残念でならない。
一通り、バイクの運転を練習し終えると時間が深夜の12時になっていた。そろそろ帰る時間だ。
俺は駅に戻て帰り支度をしていると高橋が話しかけてきた。
「どうだったかいバイクの方は?」
「とても楽しかったです」
「そうか、それはよかった。でも運転には気をつけるだよ。あのトンネルは道が凸凹してるからね」
「はい」
「それでなんだが、君にもう一つプレゼントがあるんだ」
「え、なんです?」
高橋はカバンから厚みのある、A4サイズの封筒を渡してくれた。「さあ、中を見てごらん」と云った。
俺が中身をみると札束が入っていた。
「それはこの前、強奪したお金だよ。100万円入ってる。少ないが受け取ってくれ」
「え、こんなにですか?」
「いや、本当は取り分は平等に分けるんだが、君の場合はまだ高校生だ。残りは高校を卒業した時にまとめてお金を払うよ」
「でも、こんなにもらって大丈夫ですか?」
「もちろん、このお金を銀行口座に入れたりしちゃダメだよ。足がつく。それに、ブランド品や高価な物を買っちゃダメだよ。君の親にバレるからね。君のバイトで無理して帰るぐらいの物を買うといい」
「でも本当に大丈夫ですか?なんか、余計な物を買っちゃいそうで怖いです」
「大丈夫だ。君は冷静だ。君の事を信じているよ」
「ありがとうございます。無駄に高い物を買わないようにします」
帰り道に何を買おうかと自分の買い物リストを作った。できるだけ地味な。バイトで無理して帰るぐらいの値段の物を。いったい何を買おうかウキウキした。
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