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 今回の獲物は結局、霧島が追っていた仮想通貨詐欺グループのトップに決まった。

 この男は仮想通貨詐欺をの常習犯だ。俺には仮想通貨詐欺の事がよく分からなかった。霧島曰く、架空の仮想通貨を作り投資者から金を奪い、バレたらすぐに仮想通貨を潰して、また新しい仮想通貨を作る。その繰り返しをしている。どうやら、被害額が30億円以上の被害額らしい。

 でかい事件だ。なぜ、この詐欺師を選んだかというと、まだ警察にマークされていないことと、詐欺グループの主犯格が逃げ出す事がよくあることだからだ。仮に、事件性が疑われても内部の犯行やヤクザによるものだと警察が判断するであろうという決断からだった。それに、他にも理由がある。俺は知らなかったが定期的にこういった詐欺グループの犯人を獲物にする事によって良くいえば資金調達、悪くいえば小遣い稼ぎをしていた。みんな、仕事をしているとはいえ、家計の方は苦しいようだ。

 犯行はいつものように夜の2時に行われた。今回は杉浦が家のセキュリティーを解除するために2週間調べて張り込みをした。さすが、詐欺グループのリーダーだけあってセキュリティー会社と契約しているのはもちろん、見える限りで外にはカメラが7台。警報器は10台。鉄壁のセキュリティーである。

「本当に大丈夫なんですか?こんな警備の厳しいところを狙って?」と俺は作戦会議で云った。

「大丈夫だよ。前にもっとすごいところをやった事があるからね」と霧島が云った。

「そうさ、大丈夫。多少ハイリスクだがその分、リターンが大きい」と高橋が言った。

 俺は不安に感じた3回目がこんなに要塞のような家に忍び込んで成功するとは思えなかった。

「大丈夫だから、そんなにビビらないで。何かあったら私たちがどうにかするから」と杉浦。

 オフロードバイクで、トンネルで渋谷に向かい、下水道を使い現場に着いた。

 家は渋谷区の高級住宅地に在った。目測だけでも10部屋はありそうな大きさの2階建の家だった。塀は高く目測で4メートルほどあった。作戦会議で云っていたように、目立つところにカメラが4台在った。他にも裏手、横壁面に2台ずつ在るらしい。

 杉浦が、パワーを使って塀を乗り越えた。霧島はMacBookProを使いキーボードを連打して家のシステムにハッキングをしている。しばらくすると、中から玄関が開いた。

「これで大丈夫。警備会社にもバレないし、カメラも止めた」と杉浦。

「おい、カメラを止めたのは俺のお陰でもあるんだからな」と言いながら霧島はリュックサックMacBookProをリュックサックに入れた。

「では、食事とお小遣いの時間だ」と北山を先頭に俺たちは門をくぐった。

「いいか、まずは殺すなよ。金のありかを聞いてから食事にするんだぞ。頼んだぞ水川」と高橋がはいうと「はい」と水川が答えた。

 作戦会議の時、初めて水川が相手の尋問するのに優れているのを知った。もしかすると俺の胸の中を覗き込まれているのかもしれないと思ったが、尋問だ。相手の考えている事は分からないらしい。尋問でお金の隠し場所を探る作戦だ。

 ドアに着くと、杉浦がドアノブに手をかけた。

「これは厄介だ」

「なにかあったんですか?」と高橋

「鍵が2個、しかも内側にも鍵が2個付いている。相当警戒しているみたいね」

「どうですか、解除できそうですか?」

「多少パワーと時間を使うけど多分大丈夫だと思う」と云って松浦はドアノブに手をかけた。

 いつもより長い時間がかかった。

 俺は、誰かに目撃されるのではないかとビビってきがきではなかった。

 「ガチャン」と一斉に4つの鍵が解除された音が聞こえた。松浦がドアノブを回すと扉が開いた。部屋は暗かった。どうにか電源スイッチを見つけて押すと電気がついた。

 そこには大きな階段と天井から大きなシャンデリアがぶら下がっていた。家具も中世のヨーロッパ調で、右の部屋にはグランドピアノが置いてあった。

「これは、相当の金持ちだな」と北山が目を輝かせながら云った。

「相当金を持っているに違いない」と霧島は云った。

「でも、こんなに家が広いとどこに彼がいるか分からないじゃないですか?」と俺は云った。

「確かに。これじゃあまるで迷路だ」と北山。

「つべこべ言わずに探したらどうなの?寝室か、書斎にいるはず」と水川が云った。

「その通り、みんなそれぞれバラバラになって獲物を探しましょう。決してパワーで殺さないように」と高橋が柔らかい口調で云った。

 みんな散り散りになっった。霧島と杉浦は1階を、俺と、北山と、高橋と、水川は2階へと向かった。

 2階に部屋は8個あった。みんな無言でそれぞれの部屋へ入っていった。俺が入った部屋の電気をつけると、そこにはたくさんの服が収納されていた。下手な洋服屋より服の数が多く、一生分では着れないない程の量の服だった。どれもブランド品でいかにも成金といった感じがした。部屋を後にしようとした時、隣下から「パン」という金属混じりの音が響いてきた。何事かと隣の部屋へ向かうと20代の小太りの男が、大きな書斎で黒い物を握りしめていた。よく見るとそれは拳銃だった。部屋の床を見ると、顔の右上の先頭部が吹き飛び脳髄が欠損していてプルプルと小刻みに震える北山が倒れていた。

 小太りの男は銃を俺に向けた。その時、水川が部屋に現れてパワーを使ってピストルが破裂し、ピストルが大破し部品が床に散らばった。さらに、男は微動だに出来ずにそのままフリーズしたかのように動かなかった。おそらく水川がパワーを使っているようだ。

「大丈夫か?」と叫びながら部屋に入ってきたのは霧島だった。「北山」と右前頭部が欠損した北山をに近づいた。俺も彼と同じく北山を見下ろす形で彼を見た。これは素人目にも助からないと分かった。

「どうしたんだ?」と高橋が部屋と杉浦、現れた。

「どうなっているんだ?」と霧島が叫んだ。

「アイツが銃で北山さんを撃った」

「なんで銃なんて持っているんだよ?今すぐ殺してやる」と霧島が怒鳴った。

「やめるんだ霧島。そんな簡単にアイツを殺すわけにはいかない」水川が云った。

 男は瞬きひとつできず立っているだけだった。

 俺の視界の横で何かが動いたているのが分かった。よく見てみるとそれは拳大のは在る、俺が「紫色のナマコ」と呼んでいた株だった。株は男の方角へと少しずつ動いていった。すると、株が突然破裂して紫色の体液と肉片が部屋中に飛び散った。

「アイツに寄生させるわけにはいかない」と霧島はいった。彼はパワーを使って株を殺した。

 北山はまだピクピクと動いていた。

「北山はどうする?もうたすからないわ」と杉浦がいった。

「俺が、楽にしてやる」と険しい顔をして高橋は、彼の胸に手を乗せた。すると北山は動かなくなった。それから、彼の見開いた瞼を指で閉じた。

「これからどうするんです?」と俺は抑揚のない声でいった。

「計画通り、ことを進めるさと」高橋がいった。「だが、ただでは殺さない」

 男は動けないままでいた。

「どうするの?」と水川。

「生きたまま少しずつ食べるんだ。苦しんで死んでもらういいよなみんな?」と高橋。皆がうなづいた。

「お金のありかわ?どうするの?」

「もちろん聞くさ。こいつから全部奪い取ってやる」

 水川はパワーを弱めて、相手が喋れるようにした。

「ごめん。殺すつもりはなかった。突然入ってきたから、つい撃ってしまった。金ならあるいくらでも。そこの壁に飾ってあるゴッホのひまわりの絵があるだろ?その裏に金庫がある。1億はある頼むからそれで許してくれ?」

 松浦がゴッホのひまわりの絵画を外すと押しボタン式の大きな金庫があった。「番号は?」

「5824」そういうと松浦はボタンを押した。すると中に札束と金の延べ棒が入っていた。松浦はリュックサックから大きなセカンドバックを取り出すと、札束と金の延べ棒を入れた。

「なあ、本当にあっただろ?これで許してくれるよな?」と男がいった。

 すると、男の右手の人差し指がちぎれ、宙を舞、霧島の口の中に入ってバリバリと食べ始めた。

 男は叫び出した。

「悪い、水川。こいつうるさいから黙らしてくれないか?不愉快だ」そういうと男はまた硬直て何も話せなくなった。

 男は生きたまま食す事になった。少しずつ、体をサイコロステーキの大きさにカットして、しかも気絶しないようにして苦しみながらみんなで食した。

 みんなどんよりとした空気の中食べた。味は不味くなかった。むしろ美味しかった。だがとても楽しい食事とはいかなかった。

 男を全て手べ終わった後に北山の死体についてどうするのか、俺は気になった。

「北山さんの死体はどうするんですか?」

「株に取り付いた死体を食べる事はできない」と高橋は険しい顔で云った。

「できないというと?」

「食べると気がおかしくなって仲間と共食いになる。そう言われている」と霧島は云った。

「じゃあ、どうするんですか?」

「身元が分からないようにして燃やすしかない」と高橋が云った。「杉浦さん火災報知器を切ってください」

「わかりました」

「水川さん。お願いします」というとパワーを使った。すると北山の死体の指が破裂して、頭が吹き飛び脳髄と肉片と血液が部屋中に散らばった。

「桐谷さん。車庫に云って車からガソリンを取ってきてくれますか?」

「はい」俺は下に降りて車庫を探した。家の右側に車庫の通路を見つけて入った。中にはフェラーリとランボルギーニが止まっていた。普段なら驚くところだが、今はそんな気分になれなかった。

 車庫の棚を探したすると携帯用の金属でできた大きさ横50センチ程のガソリン入れを見つけた。持ってみると中にガソリンが入っていることが分かった。ガソリン入れを持って書斎に向かった。

「ありがとう。桐谷くん。あとは僕がやるよ」と高橋がいうと、ガソリン入れの蓋を開けて北山の死体に振りかけた。そしてライターで火をつけた。燃え上がる北山の死体。ガソリンの匂いと焼けた肉の臭いと煙が部屋中に立ち込めた。

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