30

鈴木の部屋でゲームをしていた。今日はバイオハザードをやっていた。何度もミスをしてしまった。

「おい、今日はミスが多いな。どうした?なんだか落ち込んでいるみたいだぞ」

「まあな。少し嫌なことがあってな」

「なんだ嫌なことって?」と鈴木がいうと窓を開けてタバコを取り出し、火を付けた。

「まあ、色々だよ」

「家庭のことか?」

「いや、家庭のことじゃない」

「じゃあ、なんだ?」

 しばらく俺は考え込んだ。だが、このことを打ち明けられるのは鈴木しかいなかった。

「実は恋に落ちたんだ」

 鈴木はビックリした表情になった。

「そうか、ついにお前が恋に落ちるなんて、ずっとお前のことを変人だと思っていたけど普通の感情はあるんだな」

「うるさい。余計なことをいうもんじゃない」

「それで相手は?学校の子かそれともバイト先の子か?」

 なんて答えて良いか分からなかった。

「インスタで知り合った人だよ」

「マジかよ。すごいな。それで、それで?」

「俺が恋に落ちたんだけど、相手には好きな人がいるみたいだ」

「なるほどね、それは厄介だ」というと鈴木は俺にタバコを渡した。タバコを加えて火をつけて吸った。

「相手はどんな人なんだ?」

「美人だよ」

「それで、年はいくつだ?」

「18歳」

「年上か、厄介だな。18て大人じゃないか」

「そうなんだよ。例え好きな人がいなくても俺に振り向いてくれるとは到底思えない」

「まあ、これは長期戦になるだろうな」と鈴木が吸い終わったタバコを陶器の小皿に押し付けると、もう一度タバコを出して口に咥えて火を付けた。

「だから最近、お前元気があったんだな」

「まあね。でも今は気分がのらない」

「まあ、落ち込むなって。女なんて星の数ほどいるんだから」

「ああ、わかってるよ。でも、彼女は一人しかいない」

「名前はなんていうんだ?」

「水川ニコ」

「すごい可愛い名前じゃないか」

「ああ、名前負けしないくらいの美人だ」

「なるほどね。それにしても随分難しい相手に恋をしたね」

「まあね。我ながら身の丈に合わない人を好きになるなんて馬鹿だと思うよ」

「そう、自分を卑下するなよ。お前の悪い癖だぞ」

 確かに、俺は自分を卑下する癖がある。きっと、育った環境がそうさせたのだろう。

「まあ、18歳になるまで我慢するか、それとも違う人と付き合うかが良いじゃないか?まあ後者の方がオススメだけど」

「そう、うまくいかないよ」

「でも、お前最近、見違えるようにカッコ良くなっていってるぜ。落ち着いた雰囲気になってるし。女はそういうタイプの男に惚れやすいんだ」

「そうか、ありがとう」と鈴木がいうが、彼もまた女と付き合ったことがない。付き合ったことのない奴に相談して男の意味があるのか自分でも分からなくなっていた。

「それか、いっそのこと告白して玉砕するのも手だぜ。それで諦めがついて次にいける」

 確かにその手があるかもしれない。踏ん切りをつけるのにも良いかもしれない。だが、告白してしまったら、仲間達との関係までギクシャクするのではないかと思った。いったいどうしたら良いものか。

「まあ、応援してるよ。フラれようと成功しようと」

「ありがとう」

「そういえば、藤浪さんのLINEアカウントの件なんだけどさ聞いてくれた?」

「あ、忘れてた」

「それはないよ。次に会った時には必ず聞いてくれよな」

「ああ、わかった」

 鈴木も女子大生に夢中。きっと叶わぬ恋だ。自分がまさか鈴木と似た状況になるとは思っても観なかった。藤浪さんにはLINEアカウントの件を聞く気はなかったが、鈴木には相談に乗ってもらったし今度コンビニで会ったら聞いてみることにした。おそらく鼻で笑われて終わるだろうが。鈴木も俺も玉砕して次のステップへ踏み出さなければいけないきがした。

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