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4日後のネットニュースにて、「武蔵野市一家、失踪か?」という見出しのニュースが掲載されていた。事件の記事を要約すると、武蔵野市の一軒家に住む男性40歳(無職)が、老人ホームに住む男性の父親が一時帰宅中に父親と連絡が取れなくなった老人ホームの職員が警察に通報。居間に少量のルミノール反応が出たことから、犯人は家に住む行方不明の男性の可能性があると視野に入れて調査をしているとのことだった。

 エンジンオイルでは完璧にルミノール反応は消せないことが証明された。

 ネットの記事の閲覧数を見るととても低く、テレビのニュースで少し取り上げられた程度だった。安心して良いのか分からないが、霧島曰く「みんな、野球に夢中で直ぐに事件のことなど直ぐに忘れる」との事だった。確かにテレビを見たら、WBCが終わっているのに未だに野球の話ばかりだった。あまり考え込む必要はないのだろうかと思った。

 罪の意識は完璧になくなっていた。まるで自分がマクドナルドでチーズバーガーを食べてる時に牛に対して罪を感じないようにだった。

 それよりも、気分が高揚していた。生まれてこの方こんなに絶好調だった時があっただろうか?お風呂上がりに鏡を見た時に身体は引き締まり腹筋もしていないのにシックスパックになっていて腕も力瘤が硬く鋼のようだった。

 気持ちもだいぶ良くなり母親ともだいぶまともな会話をできるようになった。菅はというと立場が逆転したように俺を見ると怖がっているのがわかった。

 それから、なぜだか急にクラスの女子から告白された。相手はクラスでも3本の指に入る美人の滝川美希だ。これには俺も驚いた。

「なぜ、俺のことが好きなの?」と聞くと「堂々としていてカッコいいから」と言われた。そんなこと言われたのは初めてだった。俺は迷ったが彼女の申し出を断った。「俺には他に好きな人がいるから」と。

 もちろん、水川ニコのことだ。俺は彼女に夢中になっていた。彼女に会うたびに幸せな気分になった。彼女のことを考えれば考えるほど何も食べなくても生きていけるほど好きになっていた。

 あの事件以降、獲物の選定を強化した。夜に3班に分かれて、獲物の家を監視したりメールのやり取りをするのだ。運がいいことに俺は水川とコンビを組むことができた。毎日コンビニのバイトが終わると地下鉄の駅に集まりパソコン、タブレット、スマフォを持ち寄って情報収集する。これで毎日のように水川と一緒にいられる。

 今日も、バイトが終わって地下鉄に向かい水川に行った。彼女はiPadで情報収集していた。

「こんばんは」

「こんばんは」

「調子ははどうです?」

「まあまあよ」といつもながら冷たい反応だが俺は気にしなかった。そんなクールなところも好きなところだった。

 俺はカバンからMacBookAriを取り出し、次の獲物を探した。インスタグラムにログインした。

架空の女子中学生のアカウントだ。ところどころ際どい、胸元の開いた服装や水着姿の写真をアップする。すると大量のDMが届いていた。どれもロリコンばかりだ。その中でも気持ち悪い画像をDMを送ってきた奴を霧島にデータを渡して、そのアカウントのインスタの画像の位置情報がついている奴を探し出すところから始まる。そして、同じ場所から連続で投稿してある画像の人物を獲物にする。そして、その住所に向かう。それから、家を監視する。最低でも2週間。

「水川さん。何かいい獲物がいましたか?」

「いない、そっちは?」

 画面を見ていると数あるDMから裸の自撮り写真を送ってきた男がいた。

「ありましたよ。裸の自撮り写真」

「霧島さんに渡して」

「はい」

 霧島にデータを送った。

「ああ、こいつは練馬区に住んでるね多分」と霧島が云った。

「練馬区ですか。ちょっと遠いですね」

 向かいに座っていた高橋が口を開いた「まあ、あまり近場に多様な失踪事件が起きると警察にバレるかもしれないから練馬もいいんじゃないかな?」

「確かにそうですね」

「じゃあ、練馬区の男の監視頼んだよ」

「わかりました」

 俺は水川の元に向かった。

「水川さん。この男は練馬区に住んでいるみたいです」

「練馬?遠いわね」

「でも高橋さんがあまり近場で同じ事件を繰り返したら警察にバレるかもしれないというのでゴーサインが出ました」

「わかったは、今日は遅いから明日行きましょう」

「はい」

 俺はとても嬉しかった。練馬までバイクでどのくらいかかるか分からないが、長ければ長いほど水川と一緒にいられる。そう思うと気持ちが晴れ晴れとした。

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