27
金曜日の夜。狩りの決行の時間だ。
今日の現場は武蔵野市の住宅街にある一人暮らし用のアパートだ。獲物は闇バイトで募集してきた男だった。「強盗はできますか?」の問いに「できます。なんだったら子供だって殺すことも簡単にできる」と返信があった。
この男であれば殺して食べても罪の意識に悩まされることはないだろう。
この前みたいに、リュックサックに、レインコート、長靴、ビニールシートを入れて、地下トンネルで武蔵野市に到着した。
今回も俺は水川のバイクに乗せてもらった。とてもドキドキした。もし、勃起をしてしまったらどうしようと、頭の中でいろんな気持ち悪い映像を流してどうにか我慢した。この数日間彼女の事を考えない日はなかった。駅で作戦をしている時も彼女の顔を無意識にチラチラと観てしまい作戦が頭に入ってこなかった。
「おい、大丈夫かい?」と霧島が俺を見て云った。
「大丈夫です」
「そうか、なんだか心ここに在らずて感じがしたから」
「少し疲れているだけです。大丈夫です」
「まあ、無理するな」
「おい、ここで合っているだよな?」と北山が云った。
霧島はiPadを見て。「ここでOK」と答えた。
北山は梯子を登りマンホールを開けて周りを確認した。「OKだ」
みんな梯子を登って外へ出た。
「あれが獲物の家」と指差した方向を見ると一軒家だった。
「え、一軒家ですか?1人暮らしじゃないんですか?」
「大丈夫。親と同居していたみたいだけど、両親は、今は介護施設にいるから獲物は実質一人だ」と霧島が云った。
「どうですか、杉浦さん。セキュリティーの方は?」と高橋。
「多分あるセキュリティー会社と契約しているわね」と杉浦。
「解除できますか?」
「大丈夫よ。任せて」
俺が思っていた家と違った。闇バイトに応募するような人はこの前みたいに1人暮らし用のアパートに住んでいるのだとばかり思っていた。
「本当に、中には1人しかいないんですか?」
「ああ、俺が徹底的に調べたからな」と霧島。
「一軒家てよくあることなんですか?」
「ああ、よくあることよ。リストラされたり親の財産を相続して家に住んだり、中には金持ちが一人で一軒家に住んでいる場合がある。ていうか作戦会議の時に何を聞いていたの?ちゃんと今回の獲物は一軒家に住んでいるって云ったでしょ」と水川。
そうだった、俺は水川が気になってチラチラみるのに忙しかった。
「まあ、そんなに怒らないで。きっと、2回目だからまだ緊張しているんだよ。なあ、桐谷くん」と高橋が云った。
「はい、すみません。以後気をつけます」
「まあ、早くセキュリティーを解除して食事にしよう」と杉浦が云った。
杉浦は急いで塀を越えて庭に忍び込んだ。数分すると彼女が戻ってきた。
「セキュリティーは解除されたは。あとは部屋に入るだけ」と杉浦がドアノブに手をかけると「ガチャ」と音がして鍵た解除した。
「よし入るか」と北山を先頭に部屋に入っていった。そして、みんなが後に続いた。
今の扉のガラス戸から光が漏れていた。獲物はまだ寝ていない。まずい。引き返さなければと俺は思った。周りを見渡すと、それも織り込み済みと言わんばかりの表情をみんながしていた。
「俺が行く」と高橋ぽつりというと、今のドアを開けて入った。
「おい、お前誰だ?」と男の声が今から聞こえてきたので、急に大人しくなった。しばらくして、高橋が戻ってきた。「終わったよ」と少し微笑みながら云った。
みんなで居間に入ると綺麗に整頓されていた。テレビ画面にはゲームのバイオハザードが流れていた。男はソファーで寝ているような格好で横になっていた。背は高く大柄だった。テーブルにはピーナッツとキリンビールの缶が置いてあった。
「終わったな。あとは食事だけだ」と霧島。
「今日のは肉が詰まっていて美味しそうだな」と北山。
「さあ、食事にしましょう」と杉山がいった。
その時だった「おい、うるさいぞ」と叫び声が家の奥から聞こえてきた。一瞬緊張が走った。
俺はつい「1人のハズじゃなかったんですか?」と云った。
「黙れ」と押し殺す声で水川が云った。
「みんな、とりあえず隠れろ」と云って高橋が電気を消した。部屋は真っ暗になった。
俺はどこに隠れていいのか分からず、ドアの横の壁にしゃがんでもたれかかった。
コツコツと足跡がこちらに向かってくるのがわかる。「おい、健斗どうした?友達でも呼んだのか?」男の声が聞こえた。足音が止まり、電気がついた。すると、そこには老人がいた。老人はふと下を見ると俺と目があった。老人は無表情で云った。「お前は誰だ?」その時俺は急にパニックに陥った。そして老人の頭にパワーを集中させた。するとバチという破裂音と共に老人の頭が膨らんで脳髄が飛び散り、歯が弾丸のように部屋中に飛び散り、顔の皮が前にだらんと落ちて破裂した。身体は、その後、操り人形の糸を全て切ったかのように、だらりと床に倒れ込んだ。
俺は呆然としていた。ついに人を殺してしまったのだと。呆然としていた時に肩に柔らかい感触がした。振り返るとそこには高橋がいた。
「大丈夫かい?」
「いいえ、大丈夫じゃありません」
「まあ、仕方ない。これは事故だったんだ」
「でも、関係ないほとを殺してしまった」
霧島が口を開いた。「そうだよ事故だったんだ。俺の調査不足だった。全部俺のせいさ。きっと、介護施設から一時帰宅していたんだろう。自分を責めることはない。俺の責任だ」
「そうだよ。事故だよ。それに、今日は2人分も食糧が入ったと思えば良い」と北山。
「北山、そんな言い方やめなさいよ。よくある事故だから気にしないで。みんな経験してるはず。ね?水川ちゃん」と杉浦。
「そうよ。私だって3ヶ月前に経験したはず。誰もが通る道。だから気にしないで」
高橋は口を開いた。「そう、誰もが通る道だ。それに、あの時パワーを使わなければみんな捕まっていたかもしれない。実に的確な判断だった。私だって暴走をしたことがあるから恥じることはない。さあ、もう忘れて食事にしよう」
そういうと、ビニールシートを床に敷いて死体を2体乗せて、みんなでパワーを使ってバラバラにして食べた。若いと云っても中年の男の方が大柄だった事と若かったことが重なって、美味しく感じた。俺が殺した老人の方は、まあまあな味だった。
食べている間に色んなことを考えてしまった。この中年の男は、職を失って闇バイトでなんでもやるとハッタリをかまして、自分の父親の老人ホームの代金を支払うハズだったのかもしれないと。そう思うとなんともいえない気持ちになった。本当にこの男は悪い奴なのだろうか?しかし食べている間にそんな感情が消えていくのがわかった。罪悪感より食欲の方が勝った。そんな自分が怖くなった。
「なあ、元気出せて」と云ってくれたのは北山だった。
「はい」
「脳みそがおいしいんだ。食べる?クリーミーでとてもおいしいぞ。さあ、食べてみなよ」というと脳髄の切れ端を渡された。
俺は、少し気持ち悪いと思いながらも口に入れた。口の中で噛まずに溶けてとても美味しかった。
「どうだ?おいしいだろ?」
「はい、おいしいです」とつい俺は笑顔になった。その姿を見てみんなは安心したのか、その場の空気が和んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます