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「やればできるじゃないの」と今まであんなに険しい顔をしていた水川が笑って云った。

「ありがとうございます。これも水川さんの指導のおかげです」

 ついに俺は鶴をパワーを使って折ることに成功した。とても嬉しかった。

「じゃあ、今日はお祝いね」というと、駅の奥へ行った。目で水川を追うとそこには冷蔵庫があった。冷蔵庫があるとは今まで気づかなかった。冷蔵庫から、アサヒスーパードライの缶を2つ取り出して俺の元に向かってきた。缶を俺に渡した。

「ビールは初めて?」

「はい」

「そう、最初は苦いかもしれないけどそのうちに美味しくなるわよ」というと水川はプルタブを開けた。俺もプルタブを開けた。

「じゃあ乾杯」

「乾杯」というと缶を軽くぶつけてから、ビールを口に含んだ。シュワシュワと炭酸が広がり苦く、まるでお茶に似た味とアルコールなのだろうか独特な味がした。

「どう、美味しい?」

「わかりません。苦くて。なんともいえません」

「舌はお子ちゃまなのね」というと水川はソファーに座った。「さあ、桐谷くんも座って」

「はい」と答えると、俺はソファーに座った。

「今まで厳しいことを行って悪かったね」

「いいえ、大丈夫です」

「いや、ちょっと厳しすぎたかもしれないと思って毎日に帰るたびに反省していたの」

「そうなんですか。その点は起き使わなく」とは云ったが結構傷ついた。

「そういえば、桐谷くんは16歳だっけ?高校1年生?」

「はい。高校1年生です」

「良いわね。若くて」

「水川さんも若いじゃないですか?」

「私のこと何歳に見える?」と無茶振りをされた。こういうことは18歳に見えた。確か、霧島も彼女が18歳だと云っていた。だが、年を聞かれた時に実年齢よりも若くいう方が波が風立てずにすむ。

「同い年じゃないんですか?」

「違うよ。18歳よ」

「そうは見えないですね」

「そう、ありがとう」お酒の影響か、指導がある程度終わった安堵感からか今日の水川はとても気さくで明るかった。

「そういえば、水川さんはいつ株を埋め込まれて、能力が覚醒したんですか?」

「私は、10歳の時に株を埋め込まれた。母親の恋人に。それで15歳の時に発症したの」

「水川さんの家も、両親が離婚していたんですか?」

「そうよ。最低な奴だった。なぜ母親の恋人が株を保有していたのかは不明だけど、株が私に乗り移った時に、奴は死んだわ。私はとてもアイツが死んでとても喜んだのを覚えている」

「その気持ちわかります。僕の母親の歴代の恋人もみんな最低な奴ばかりでした。いつも、死んでしまえば良いと思って生きてきました」

「まさか似た境遇だとは考えても見なかった」というと彼女はビールを飲んだ。

 俺は急に水川と距離が縮んだ気がした。そしてわかった。水川に今まで抱いてモヤモヤする感情は恋なんだと。急になぜだか恥ずかしくなった。理由はわからない。おそらく初恋だったからだろう。そのまま黙っていると怪しまれると思った。なので話続けた。

「それで発症した時は、どうでしたか?」

「まず、生肉が食べたくなって、お小遣いで生肉を買っては食べてたのよ。そうしたら、その場に高橋が現れてスカウトされた」

「疑問に思っているんですが、どうやって株を保有している者を見つけられるんですか?」

「前にも云ったかもしれないけど、あなたの場合は簡単だった。成瀬が死んだ時に近くで倒れていたから。でも、株が覚醒した時に高橋がヴィジョンが見れるのよ」

「ヴィジョンですか?」

「そうよ、ヴィジョンよ。覚醒した人がどこで何をしているのかわかるのよ」

「そんな、能力が高橋さんにはあるんですね」

「そう、彼は実質リーダよ。彼はリーダーと言われるのが嫌みたいだけど、1番の能力が高いは」水川はポケットからマルボロを出してタバコを咥え火をつけた。「いる?」「はい」と云って俺は彼女からタバコを貰い煙を肺に入れた。

「そういば、桐谷くんの趣味は何?」

「趣味ですか、映画を観たり、ギターを弾いたりしています」

「へえ、文系なのね。やっぱりそう思った。バンドとかやってるの?」

「いや、バンドはやっていませんが自分でパソコンとギターを使って曲を作ってます」

「へえ、すごいじゃん。何系の音楽なの?」

「インディーロックです。水川さんは音楽には詳しいですか?」

「あまり詳しくないわ。洋楽だとビリー・アイリッシュとウェット・レッグが好きかな。あとはK-POP。BTSとブラックピンク」

「僕も好きですよ。ビリー・アイリッシュとウェット・レッグ。それにブラックピンク」

「意外な共通点があったわね」

「そうですね」

「そうだ、まだ試験は残ってるのよ」というとソファーから立ち上がり指を刺した。指の先に水川のバイクがある。

「あれを宙に浮かせて」

「バイクですか?重たすぎて無理かと思うんですが」

「いいから、命令よ。あのバイクを宙に浮かせて」水川は酔いが回っているのか無理なことを言ってきた。

「じゃあ、頑張ります」

 俺はバイクに集中して念じた。もう無理かと思ったその時にバイクがブルブルと震え始めた。

「その調子。バイクを壊さないでね」

 急に、緊張するようなことを言われたので動揺した。こんなタイミングでいうなんてデリカシーがなさすぎる。

 再び、バイクに集中した。浮くように願った。するとバイクが徐々に宙に浮き始めた。最終的には自分の身長と変わらないくらいの高さまでバイクが浮いた。

「ここからが重要よ。ゆっくり、落ち着いて下すの」

 言われたように、集中してゆっくりと宙に浮いたバイクを少しずつ下ろした。小さく「ガチャン」とスプリングが軋む音で床にバイクが着地した。

「やったじゃない!」と水川は、はしゃいで俺を抱きしめて頬にキスをした。あまりの出来事にビックリした。軽いパニックを起こすところだった。そして云った「思わずキスしちゃった。このことはみんなに内緒ね。特に高橋さんには」

「はい」

「じゃあ、これで修行も終わったことだしお開きね。おやすみなさい」というとバイクにまたがりエンジンをかけバイクでとんにるに入り走り去った。

 俺は、その頃には正気を取り戻していた。初めてのキスはとても柔らかかった。頬とはいえキスはキスだ。それに彼女のことが好きだとわかった。これが恋なんだと初めて知った。とてもドキドキして心臓の鼓動の音がからがから響き渡っているのではないかと思った。そう思うと急に恥ずかしくなった。完璧に浮かれていた。きっと恥ずかしさの正体はこれだろうと思った。

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