24
コンビニを後にすると自転車で公園に行き、地下鉄の扉を開けて地下鉄の駅に到着した。
すでに、水川が待っていた。
「遅い10分遅刻よ。なんで電話で遅れるて連絡くれないかな?」
俺はチープカシオをみた。10分遅れていた。
「すみません。腕時計遅れていたみたいで」
「まあいいわ。始めましょう」とやる気のない感じで水川が云った。
「今日は何をするんですか?」
「今日は細かい作業をパワーをしてもらうわ」
「細かい作業ですか?」
「そうよ。パワーがデカイだけじゃダメ。繊細な事もできないようにしなくちゃ意味がない」
確かに、この前男の腕をもぎ取った時にパワーを使い過ぎた。杉浦さんみたいに細かくパワーを使えるようになったら証拠も残りにくいだろう。
「それじゃあ、もうボールペンは宙に浮かせられるみたいだから、今度は折り紙を折ってみよう」
「折り紙ですか?」
「そう。折り紙さえできれば細い事ができるようになるはよ」
と水川がいうと、机の引き出しからA4の真っ白い紙を出した。
「さあ、折り紙で鶴を折ってみて」
「いったい、どうやったらいいんですか?」
「ボールペンの時と同じよ。集中して紙を折ることを想像すればいいのよ」
「わかりました」
俺は机の上に置いてあるA4の真っ白な紙に集中した。すると、紙が小刻みに震え出して半分に折れた。
「そう、その調子」と水川が云った。
それから、もう一度反対側を折ろうとした時に急に紙が敗れた。
「惜しいわね。じゃあ、もう1回」
それから、2時間ほど何度も折り紙に挑戦したがダメだった。
「本当に不器用なのね」
「すみません。どうしても上手く行きません」
「仕方ないな。最初はそんなものよ」と珍しく優しい言葉をかけてくれた。水川から優しい言葉をかけてくれるのは初めてだった。
「今日はこのくらいにして帰ろう」そういうと、水川はオフロードバイクにまたがりエンジンをつけてトンネルに入って行った。
俺が家に着いたのは夜の12時の事だった。家に帰ると母は夜のシフトに入っていたためいなかった。菅が机に上半身を洩れかかって眠っていた。周りにはストロングゼロの缶が置いてあった。こいつもそろそろ母親に捨てられる運命なのだろうと思った。ここ3ヶ月、菅は次の仕事が見つからないでいた。時折、壁越しに母と菅が喧嘩している声が漏れてくる頻度が増えた。まあ、俺には関係ない事だ。菅の顔を見なくてすむと想像すると気分がとても良くなった。
キッチの鍋には母が朝に作ったビーフシチューがあった。皿に盛り付けてラップをかけて電子レンジで温めた。チンと音と共に、電子レンジからビーフシチューを出した。
「おい、今までどこにいたんだ?」と菅が行った。電子レンジの音で目が覚めたみたいだ。
俺は無視をして、机の上にある食パンを2斤とってビーフシチューの上に乗せた。右手に皿を持ちながら部屋に向かう途中に急に菅に左腕を掴まれた。
「だから、どこにいたって聞いているんだよ?」と明らかに酔っ払っている目をした菅が行った。
「関係ないだろ。バカ」と今まで「バカ」など云ったこともない言葉が出たことに我ながらびっくりした。
「なんだと、生意気な」
「うるせ、この疫病神。黙って寝てろ」
「このやろ」というと、菅は右手で俺に向かってパンチした。しかし、俺も気づかない間に左手で彼の拳を掴んでいた。そして、そのまま彼の右拳をゆっくりと捻った。
「痛い。やめてくれ」と菅の目に恐怖が宿っていた。
そのまま、俺は今までの菅にやられた事を急に思い出した。そして、菅の拳を振り解くと今度は左手で彼の頬にパンチした。菅は倒れ込んだ。
「うるさいって云ってるだろうが。調子にのるんじゃないぞ。バカ」と云って床に倒れている菅に向かって痰を吐きかけた。
右手にビーフシチューを持ちながら自分の部屋へ入った。
俺はなんとも言い表せない高揚感に浸っていた。やっと、パワハラ、虐待めいた事をしてきた菅を殴ってやった。とても気持ちい気分だ。これは幸先のいい表れに違いない。そう思った。
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