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高橋の発案でバイトが終わると月曜日から木曜日の夜の10時に地下鉄の駅で水川にパワーの使い方を教えてもらった。かなり厳しい指導に時々、喧嘩しそうになったが我慢した。それも何より明らかにパワーのコントロール力が上がっているのが自分でも面白いくらいに上がっている身体能力。一度はパワーを使いソファーを持ち上げた事もあった。テンションが上がったが水川は一度も誉めてくれなかった。

 人肉食を経験してから俺はとても気分が良くなった。抗うつ薬も必要らないくらい元気だった。睡眠導入剤を使わなくても眠ることができるようになった。それに、不思議なことにそれまで美味しく感じなくなっていた普通の食べ物も美味しく感じるようになっていた。

 学校の授業もすっと頭に入ってきた。前より頭が冴えてる。そう実感している。趣味の曲作りもいい曲が造れるようになった。YouTubeの再生数は伸びなかったが、出来がいい曲が作れている実感があった。それに、山本たちも、あの一件以来、俺を見ると怖がって逃げるようにして避けて行った。

 普段、仲間たちの高橋、杉浦、北山、霧島、水川は何をしているのだろうと疑問を持った。一番話しやすそうな霧島に聞いた。

 霧島は「内緒だよ」と言いながら教えてくれた。基本的には他人のプライベートには干渉しないことが暗黙の了解だった。

 霧島はフリーランスのプログラマーをしていた。だから、昼間に獲物を監視することができたのだと思った。

 高橋は事務機器の営業職をしている。なので霧島と同じく自由な時間で獲物を監視できたのだと思った。

 杉浦はセキュリティー会社で電気工事士をしているらしい。なので、高橋がアパートのセキュリティーの事を聞いて、なおかつピッキングの技まで習得していたのだと思った。

 北山は元々工場で働いていたが会社が倒産して、貯金が底をつき生活保護を受給しているらしい。なので獲物を監視するのに一役かっているのだ。

 水川は、派遣のアルバイトで部品メーカーの工場で軽作業を行なっているらしい。

 週に1度、みんなで金曜日の夜に地下鉄の駅に集まるのが習慣だ。次の獲物を物色するのだ。これが結構大変だ。15歳で作ったSNSに卑猥なDMを送ってくる奴らの特定をするのが大変だが、その辺は霧島がDMを送ってくる写真に残されている位置情報を解析して家の位置を9人にする。できるだけ一人暮らしの人間を探しているが、親と同居だったり、中には小さな子供がいる家族までいる事もあった。

 闇バイトの募集も同じだ。アカウントを除いて見ると本当に困窮している人たちの多さに驚かされる。その中から凶暴そうな、特に差別主義者などを選んでいるが、なかなか1人暮らし、身寄りのないやつは意外と少ない。

 霧島いわく「本当に悪い奴なんてこの世の中にいない」と云っていた。確かにそうかもしれない。だが、少しでもこちらの罪悪感がなくなるように、ろくでなしを選ぶしか方法はない。

 だが、腹が減り始めると話は別だ。結局、消去法で出来るだけ悪い奴選び食べるしか方法がないのだ。

 高橋曰く、年間で東京だけで失踪者は8万人いるらしい。そんだけいればいくらでも殺し放題の食べ放題じゃないかと思った。だが、油断は禁物だ。2週間に1回がベストだが1ヶ月に1回にセイブしているらしい。あまり失踪者が増えると警察に目をつけられてしまう可能性と2週間では準備期間が早すぎるという理由からだ。それに、1ヶ月人肉食を断つと禁断症状が起きて異常に人を食べたくなるそうだ。なので、できるだけ早く次の獲物を見つけ出して相手の行動パターンを監視しておく必要があった。失敗は許されない。すでに何度か失敗しているのだから。

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