21
着いたよ」と言うと水川は、駅のホームに取り付けてある錆びついた梯子を登りホームに上がった。「なにぼやっとしてるの?来たら?」
俺は梯子を使いホームへ上がった。
ホームの上には、夜間に工事現場に置かれているような大きなライトが2つ。太陽のように眩しく光っていた。その横には発電機だろう機械がケーブルで繋がっていた。発電機はブルブルと小刻みに動き、低い音をたてている。
ホームは誰れが見て分かるように古い地下鉄の駅だった。地下鉄の駅にしては質素だった。看板もなければベンチも時刻表もなかった。壁はコンクリートの打ちっぱなし。経年劣化でところどころひび割れていてシミ、藻、カビがところどころあった。
そして、なぜか、奥に人が3人入れるほどの大きさの洞穴があり、5台のオフロードバイクが停まっていた。あまりバイクには詳しくないがエンブレムで、ヤマハ、カワサキ、ホンダのバイクだとわかった。
ホームの内側には4脚の、ここには相応しくない新しい赤色をしたレザー貼りのソファーが、中央にある机を囲むようにして配置されていた。机の上にはSurface、ThinkPad、MacBookのパソコとiPad、などのタブレット。他には、書類が散乱していた。
ソファーに4人の男女が座っていた。男が3人、女が1人。みんな、年齢はバラバラに見えた。4人はこちらを品定めするかのように見ていた。とても、気まずい気分になった。
水川は女が座っているソファーの隣に座った。
「何緊張してるの?ソファーに座りなさいよ」と水川。
俺は、男の座っているソファーの隣に座った。男は険しい顔をしながらこちらを見ていた。年齢は40代くらいでかなりゴツい体格をしていた。「失礼します」と俺が言うと、男は急に笑顔になり「ああ、よろしくな。俺の名前は北山だ」と言って握手を求めてきた。俺は握手をして「こちらこそよろしくお願いします」といった。
「じゃあ、彼に自己紹介をしようか」と向かい側のソファーに座っていた、柔らかい表情の男が立ち上がった。
「私の名前は高橋浩司です。よろしくお願いします」と言って会釈した。俺もつられて会釈した。高橋はオールバックの髪型をしていてスーツを着ていた。とても清潔感があり冷静さを持ち真面目なイケメンと言う印象だった。
「じゃあ、次は私から」というと水川の隣に座っていた女が立ち上がった。
「私の名前は杉浦です。よろしく」彼女はとても気が強そうだった。年齢は30代くらいだろうか?黒いライダースを着て髪は後ろに流しポニーテールにしてある。
「じゃあ、次は俺かな?」と言ってその男はソファーに立った。
「俺の名前は霧島。よろしく」としは20代くらいだろ。彼は背が高く、顔が少し濃い印象を受けた。東南アジアの血でも入っているのではないかと思った。とてもニコニコした表情をしていた。
「水川くんのもう知っているね?」と高橋。
「はい」
「じゃあ、あなたの自己紹介をお願いします」
「僕の名前は、桐谷雅人といいます」
よろしくとその場にいた全員が言った。
高橋が口を開いた。「じゃあ、桐谷くん。今日は来ていただきありがとう。まだ戸惑っているだろう?どうか緊張しないで。みんな仲間だから」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」
「じゃあ、詳しい水川くんが言わなかった詳しいことを話そう」
「はい」
「桐谷くんはなぜ、自分が人を食べたいという欲求が抑えられなくなっていると疑問に思っているはずだ。違うかい?」
「はい、ここ数日そのことでずっと悩んでいました」
「そのことに着いて桐谷くんが悩む必要はない。君は運が悪かっただけだ。事故だったんだよ」
「事故って、水川さんが言っていた株ていう寄生虫のことですか?」
「そのとおり」
「その、寄生虫。いや、株に寄生されるとなぜ人を食べたくなるんですか?そもそも株てなんですか?新種の生き物ですか?」
「なぜ、人を食べたくなるかについては未だに謎だ」
「謎なんですか?」
「その通り。未だになんだか分かっていない。申し訳ない」
俺は少しがっかりした。この株の正体を知ることで人肉食への欲求を抑えることが出来ると思っていたからだ。
「では、治療法は無いですか?」
「今の段階ではね。桐谷くん。この駅の上に何があるか知っているかい?」
「わかりません」
「環状大学だよ。戦時中に環状大学に旧日本軍の軍研究所があったんだ。名前は稲戸研究所。その研究所で株の研究をしていたらしい事までは分かっている」
「じゃあ、株は人工的に作られた物なんですか?」
「そこまではわからない。何せ戦後、資料は秘密裏にアメリカ軍が資料を没収したからね。自然界にいた物を旧日本軍が発見した可能性もあるし、生物兵器として株を作ったかもしれない」
そういえば、社会科の授業で環状大学の地下に駅があると言っていた生徒がいたのを思い出した。そして人体実験を繰り返していたとも云っていた。
「じゃあ、僕はどうしたらいいんですか?」
高橋がしばらく黙って険しい顔をして口を開いた。
「人を食べるしか、生きていくには方法はない」
「他に、方法は本当にないんですか?」
「そう、方法がない。何人も罪の意識から断食。つまり人肉食を止めた者がいる。だが、最終的には気が触れてしまい凶暴化して見境なく人を襲うようになる。君もその断食した者の男の被害者だよ」
もしかしてと思った。「あの事件の男のことですか?」
「そう、君を4年前に襲った男だ。彼の名前は成瀬という優しい男だった。だが、人肉食へ対する罪の意識から仲間の元を離れて断食をした。そのせいで暴走してしまったんだ」
俺を襲った男の背景にそんな事があったとは知らなかった。とても複雑な思いになった。罪の意識を持った者が最終的に暴走して何人も殺し歩いたのだと思うと悲しい気持ちが押し上げてきた。そして、自分も同じ事をするのではないかと怖くなった。
「まあ、落ち込むことはない。これからは1人で抱え込まなくていいんだから」
そんなことを言われたってなんの慰めにもならない。
「じゃあ、殺す相手はどうするんですか?」
「そこのところは大丈夫ですよ。気にしなくて」
「気にしなくて大丈夫てどう言うことですか?」と俺はいった。どんなやつだろうと殺しは殺しだ。
悪いに決まってる。
「相手は慎重に選んである。それに、できるだけバレないようにして慎重に行っている。まあ、この前みたいに間違えて大ごとになることもあるけどな」
「大ごとて、この前の事件ですか?」
「そう、よくわかりましたね」
「刑事が来ました。類似事件だから話を聞きに来ました」
「なるほどね。まあ、しかたない時々パワーをコントロール出来なくなることがあるからね」
「この、パワーについてなんですが、このパワーは一体なんです?」
「それも謎です。なぜそんなものが使えるのか自分達にも不思議です」
「もしかして、宇宙から来た生物ですか?」
「その可能性もあるね。何せ超自然的な能力だからね。だけど、現時点ではなんとも言えない。今の科学力では立証するのは無理だろう」
「このパワー、どんな使い道があるんですか?」
「色々とあるよ。たとえば、獲物を殺す時に使う。武器も使わずに殺すことができるんだ」
このパワーについて何かわかると思っていたのでがっかりだった。分かっているのは人肉食をやめた途端に暴走化するということだけだ。そういえばどうやって殺す相手を選んでいるのかが気になった。
「それで、誰を殺すんですか?何か基準があるんですか?」
「主に、最近はペドフェリア。ロリコンのことだよ。SNSで15歳の女子でアカウントにDMを送ってくる男だ。それに身寄りのない人物であればより良い。他にも闇バイトの募集で危険人物だと思われる人物かな?最近はそっちの方が多いかな。それと、出所したばかりの殺人事件を起こした犯人も多い」
「でも、殺しは殺しですよね?」
「確かにね。でも、無実の一般人を殺してたべるよりいいだろ?」
どこか品のある感じがした高橋がサイコパスな人間に思えた。
「さあ、どうしますか桐谷さん?このまま、断食をして暴走して人を罪もない人間を食べるのか?それとも私たちの仲間になって、スマートに罪人を殺して食べるか?」
俺は悩んだ。このままだと、あの犯人。成瀬のように見境なく人を襲って食べることになるかもしれない。だが、仲間になれば楽に人肉を手に入れることができる。
「そうだ、今日はハントの日です。着いてきて見学してみてはいかがですか?」
「ハント?」
「狩りですよ。これから、獲物を狩に行くんです」
「でも、僕は」
ソファーに座っていた霧島が口を開いた。「まあまあ、急に変な話をして桐谷くんがパニクってるじゃないか?でも、高橋の言っていることは本当だよ。桐谷くん。今日だけでも見学してみてくれないか?君が断食して暴走すると僕らまで迷惑になる。とりあえず、今回は見学して仲間に入るか入らないか決めてくれないか?」
すると隣に座っている北野が口を開いた。「そうだ、今日の獲物は酷いやつだ。ロリコンの一人暮らしの男で、自分のチンコの画像を送ってくるような奴だ。こんな奴はそのうち子供に手を出すに違いない。だから罪の意識を感じる必要はないんだ。あんちゃん」というと俺の肩をとんとんと叩いた。
「桐谷さん。どうしますか?」
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