20
鈴木の家を9時に出て公園に着いたのが9時40分だった。公園をLEDの街灯が青白い光で照らしていた。外は寒く刺さるように痛い。早く着き過ぎて後悔した。
俺は、ベンチに座ってiPhoneでドスモノスを聴いた。彼らの激しい音楽を聴いていると気が紛れる。緊張してる時に聴くにはもってこいの音楽だ。
空を見上げると満月だった。
とても綺麗だそんな満月の日になんで、こんなところに来てしまったのか自分でも不思議だ。おそらく、これから、水川が言っていた仲間に会うことになるだろう。とても、怖かった。人を殺し、そして食べる。そんな頭の狂った連中に会うなんて正気の沙汰じゃない。だが、自分も人を食べたいという欲求があるのも事実だ。今まで美味しいと思っていた普通の食事は、不味く感じて、ミンチすら不味く感じるようになっていた。病気だ。だが、こんなこと誰に相談できるだろうか?心療内科の原田先生にも言えない。いったとしたら即入院するのがオチだ。それだけは避けたい。
すると、肩を誰かに叩かれた。振り向くとそこには水川がいた。彼女はリュックサックをしていてPコートを着ていた。
俺はイヤホンを外した。
「来たのね?バックれるかと思っていた」と彼女は冷笑するかのような笑顔で言った。
「これからどこに連れて行かれるんですか?」
「秘密基地よ」
「秘密基地ですか?どこですそこは?」
「着いてくれば分かる」
そう水川が言うと、公園の雑木林に入っていった。跡をつける。街灯の光は雑木林が邪魔をしてどんどんと暗くなっていった。
「ここよと」と言って水川は下を指差した。ほのかに月光と雑木林に遮られた街灯から溢れてきた光が地面の開閉式の扉を照らしていた。取手の部分にチェーンが巻き付けられていてゴツい南京錠で施錠してあった。
「なんですかこれは?」
「地下鉄への扉よ」
「地下鉄?」
「そう、貨物用の地下鉄が走っているの」
そう言えば、学校の社会科の授業で稲戸区に貨物用の地下鉄が走っていると聞いたことがあった。そこに秘密基地があるのか?しかしなんでだ?
水川は、屈んで南京錠の鍵穴に鍵を入れて回すと、カチという音と共に南京錠が解除された。それから取っ手にグルグルに巻き付けられたチェーンをほどいた。そして、観音開きの扉を開けた。中からカビと埃と工業油の臭いがした。
「さあ、着いてきて。ハシゴは湿気でぬるぬるしてるから気おつけて」と言うと水川カバンから小さな懐中電灯を出してハシゴを下っていった。
俺は、この地下に入るのが怖かった。今ならまだ間に合う。引き返せる。きっと自分は病気だ。原田先生に相談すれば良い治療法を見つけてくれるはずだ。だが、最終的には好奇心が勝った。
鉄製のハシゴ。コンクリートの壁に打ち込まれていて彼女が言うようにヌルヌルしていた。水川が持っている懐中電灯が地下鉄道内を照らした。一段ずつ滑らないように慎重に梯子を降りた。天井が10メートルはあるだろう。横幅は30メートルほど。壁はところどころ、カビなのか藻なのかわからないが緑色をしていた。下を見るとレールが2つあった。おそらく上りと降り用だろう。
「なに、ぼーとしてるの?着いてきて」と水川が言うので着いていった。
水川の後ろを歩く。カビと藻と湿度のせいなのか、とても足元が悪い。何度も滑りそうになる。コンバースのジャックパーセルでは滑りそうだが、彼女は慣れている様子で軽快に歩いていた。
歩いて15分ほどしたところだろうか、遠くに青白い光が見えた。
「さあ、もう少し。がんばって」そういうと水川は歩くスピードを早めた。
俺は、転ばないようにできるだけ早く。彼女に遅れを取らないよう歩いた。
光の光源に着いた。そこには、古い地下鉄の駅があった。ホームにはソファーが4脚置いてあり5人の男女が座っていた。
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