18

いつものように俺はバイトが終わり、スーパーでひき肉を買い公園で食べた。いつもより美味しくなかった。それよりも、山本の血が脳裏から離れない。水川が言っていたことは本当だったのかもしれないと思うようになっていた。人が食べたい。そう思うとひき肉など毒にも薬にもならないスナック菓子に感じた。マズい。完璧に狂ってしまったのだと思った。

 家に帰ると菅がストロングゼロを飲んでいた。俺は、無視して部屋に向かう。

「おい、無視かよ」と言われカチンと来た。すると、彼の持っていたストロングゼロが急に、炭酸水を降ったみたいに泡が缶から溢れて噴き出た。驚いた菅は「なんだこれは?」と言ってどうしていいのか分からないでいた。俺も驚いた。これも何かの偶然かそれともパワーのせいか。

 そのまま部屋に入った。疲れていたので睡眠導入剤と抗うつ剤を飲んですぐに布団に横になった。今のところ水川の言う通りだ。彼女に電話すべきか?でも、全て自分の偶然が重なって妄想に見えているだけだろうか。

 布団に入ったがなかなか眠れなかった。試しに久しぶりにギターを弾く事にした。ギタースタンドに置いてあるムスタングを手に取り、シールドをマルチエフェクターに挿してギターを弾いた。久しぶりに弾いたので気分が少し落ち着いた。クラッシュの「ステイ・オア・ゴー」、ニルヴァーナの「リチウム」、ピクシーズの「ウェア・イズ・マイ・マインド?」を弾いて過ごしていると深夜2時を超えていたが眠くならなかった。むしろ目が覚めてしまった。ギターを弾くのも飽きた俺は、ムスタングをギタースタンドに置いて、MacBookAirを開いて「食人」と打った。カニバリズムに関するページが出てきた。精神疾患だと言うものから、旧日本兵が食糧不足の為に人肉を食べたなど、読んでいて気持ち悪い記事ばかりで気が病みそうになったのでやめた。

 次に「サイコキネシス」と検索した。すると、「サイコキネシスは嘘」「サイコキネシスは存在する」といろんな、理路整然としたものからオカルト陰謀論めいたことが書かれたページがヒットした。俺は何が本当なのか分からなくなった。

 ふと、机に置いてあったペン立てに視線が止まった。こないだ水川が見せてくれたタバコを宙に浮かせる技を思い出した。

 今の自分ならできるかもしれなと思い、ペン立てに意識を集中した。集中して時間が過ぎていった。ダメかと思ったその時にペン立てが震え始めた。するとペン立てが上に投げ出される形で飛び跳ねた。ペン立ては床に落ちて、ペン立てに入っていたペンはあたりに散乱した。

 とてつもない興奮を覚えた。まるで、初めて自転車を補助輪なしで運転できた時の高揚感に似ていた。いや、それ以上だろう。これがパワーかと感動すら覚えた。もう一度やってみたい。そう思って今度は目の前に落ちているシャーペンに集中してするとシャーペンがブルブルと震え出して、宙にういた。なんとも言えない興奮だ。初めてギターで一曲弾けた時の感覚に似ている。調子に乗って、近くにあったメモ帳に何か書こうと思った。とりあえずは一番簡単な「1」だった。力を集中してメモ帳にシャーペンを移動させた。シャーペンは宙に浮きながら、メモ帳に芯の先端がくっついた。そして縦に線を書いた。若干震えてはいるが1と書く事に成功した。なんとも言えない達成感が湧いてきた。ここ最近暗い事が続いたので余計そう思った。

 俺は楽しくなり、次は「X」にチャレンジした。見事に成功した。次にチャレンジしたのは「A」だった。少し時間がかかったが成功した。そして、アルファベット全てを書こうと思いチャレンジした。直線や斜線は簡単だった。しかし曲線は大変難しかった。「B」、「G」、「P」、「Q」「S」。だが段々と練習していくと不思議なもので書けるようになっていた。そのまま漢字にも挑戦しようかと思ったが気がつくと外は明るく朝になっていた。すると、急に睡魔に襲われた。そのまま布団に気絶するかのように倒れ込み寝てしまった。

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