15

憂鬱な月曜日が始まった。

 俺は学校で、山本たちに怯えながら過ごしていた。今日もどうせ、嫌がらせにあうに違いない。そんな考えが頭の中を支配していた。今回はどんな方法で嫌がらせをしてくるのか。先週の金曜日は、いきなり後ろから飛び蹴りをされた。まあ、マシな方だった。

 極力教室から出ないようにしている。山本たちは教室には入って来ない。奴らはサメと同じだ。海の中でしか、その暴力性を発揮できない。廊下はまるで海のようだ。廊下に出なければ良い話だがそうも行かない。どうしてもトイレに行きたくなる。我慢して意識すればするほど尿意が訪れる。そしたら、トイレに行くのに廊下に出ざるを得ない。

 お昼時間の時のことだった。登校途中に買ったカレーパンを食べている時、急にお腹が減った。我慢をしようと思ったが我慢の限界に達していた。このままでは漏らしてしまう。それだけは避けたい。

 仕方なく、教室を出た。廊下を見はたすと何人かの生徒が歩いていた。どうやら大丈夫そうだ。全速力でトイレのある階段の横にある。トイレに駆け込むと個室に入った。急いでベルトを外し、ズボンとパンツを脱ぎ便器に座って脱糞をした。嗅いだ事の無いほどの酷い臭いがトイレを支配した。

 トイレに間に合ったことに安堵した。もし、教室で漏らしたらことだ。きっと山本グループ以外のグループからも手を出されることになるだろう。

 安心しながら便器に座っていると外から声が聞こえてきた。

「おい、臭いな。誰かクソを垂れやがった」

「本当だ。それにしても臭いな。こんな臭い嗅いだことない」声で分かった山本たちだ。ヤバいことに事になった。

 このまま山本たちがトイレを去ってくれれば良いのだが、そううまくいかなかった。

「おい、扉が閉まっているところがあるぜ。誰か入っている。きっとこのクソ垂れた奴がいるに違いない」と山本の子分の1人が言った。

「そうだな、誰が犯人か調べる必要がある」と山本が言った。

 俺はただ便器に座って息を潜めることしかできなかった。

「よし、俺が確かめてやると」と山本の子分がジャンプしてドアの縁をつかみ、懸垂し個室の中を覗き込んだ。俺と、山本の子分に目があった。

「おい桐谷だぜ」と騒ぐ子分。

「なんだ、桐谷だったか。それにしても臭いクソをしたな。おい出てこいよ」と山本。

 俺は迷ったが、このまま個室にいるともっと厄介な事になると考えた。しかたなくドアを開けて外に出た。外には山本と3人の子分がいた。

「おい、お前。臭すぎるぞ。どうしてくれるんだ」

 俺はどう返そうか迷った末に「ごめんなさい」と謝った。別に悪い事はしてないのに謝るのは嫌だったが、この場を収めるにはそうするしかなかったと考えたからだ。

「ごめんなさいだと。これから気分良く小便をしようと思っていたのに、これじゃあ気持ち悪くてできない。どう責任を取るつもりだ?」

「わかりません」

「分からないだって。お前、財布の中を見せろ」

 俺は仕方なく財布を渡した。もちろん、どんな理由であれカツアゲされるのを分かっていたので500円しか入れていなかったが。

「また500円かよ。しけてるな」と山本が言うと財布を地面に投げつけた。それから、俺の腹を殴った。

「悪く思うな。これで貸し借りゼロだ」と言った。

「なあ、こんな臭い便所で小便できない。他のトイレに行こうぜ」と子分の1人がそう言った。

「そうだな、臭すぎる。何食ったらこんな臭いクソが出るのか不思議なくらいだ」と言うと山本とその子分たちがトイレを後にした。

 俺は地面に落ちてる財布を拾って尻ポケットに入れた。

 怒りが込み上げてくると共に情けなさが襲ってきた。アイツらをいつか殺してやりたいと。怒りがおさまらず反射的に水面台を叩いた。すると、陶器でできた水面台が音を立てて壊れ、破片がタイル作りの床に落ちてガラスが割れるような音がトイレに響いた。

 自分でもよく分からなかった。しかも、手首が全く痛くない。血も出ている。ビックリした。自分にこんな力があるとは。多分偶然だろう。洗面台も老朽化していたに違いない。しかも陶器だ。老朽化していたら尚更、自然に壊れたって不思議ではない。それよりも、先生に見つかる方がヤバいと感じた。俺は急いで外に廊下に出て教室に戻った。椅子に座って手首を見ても、赤みも痣もできていなかった。とても不思議だ。火事場の馬鹿力というやつかもしれない。そんな事より、このことが先生にバレるのではないかと不安になった。バレたら停学処分かもしれない。

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