12
月に1度の診療内科の日。番号札は12番。相変わらず、待合室は満杯で時間通り診察を受けられなかった。チープカシオを見ると予定の時間から30分オーバーしていた。まあ、珍しくない。iPhoneでリトル・シムズの新曲を聴きながら自分の番を待った。
一連の流れをどう説明しようかと頭の中でシュチュエーションを何度もした。ことの次第を順番通り話す。そう決めた。
「番号札12番の患者様。診察室にお入りください」とスピーカーから聞こえてきた。
俺は診察室のドアをノックして「失礼します」と言ってドアを開けて診察室に入ると椅子に座った。
「どうですか?何か変わりがありましたか?」と原田先生がNECのパソコンの画面を見ながら言った。
「特に、変わったことはありません。元気です」と俺は結局嘘をついた。イジメのこと、生肉を食べたいこと。
「そうですか。それはよかった。ちゃんと、眠れてますか?」
「はい、眠れてます」また嘘をついた。あの日、生肉を食べてからお腹が減ってろくに眠れなかった。
「何か、困ったことはありますか?」
「特にありません」とまた嘘をつく。学校のイジメは相変わらず続いている。どう解決して良いか分からないでいた。
「では、今日はこのくらいで」
「はい、ありがとうございました」というと俺は診療室を出た。
もうこの心療内科に通って4年になる。大概は正直に受け答えをするが、今回は何手切り出して良いものか分からなかった。本当は正直に言おうと思っていたが、イジメの標的に合っているということなら勇気を出せば言えるだろうが、生肉を食べたいなどと言ったら即入院されるのではないかと怖くて言い出せなかった。
イジメの件は鈴木に相談できる。解決方法にはならないが気が楽になる。だが生肉を食べたい衝動は相談すらできない。きっと、本当に気が狂っていると思われるだけだ。
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