お昼休憩時間の時のことだった。俺は廊下をiPhoneでタイラー・ザ・クリエイターの新譜を聴きながら廊下を歩いた。前方に歩いてた生徒がみんな廊下の両脇へと移動するのが見えた。まるで「十戒」のモーゼが海を切り開くように。そしてその視線の先には、山本が率いる不良グループが、彼の取り巻き10人が廊下の中央を凱旋パレードのように練り歩いていた。本能的に俺は廊下の端っこに移動して目を合わせないようにした。

 練り歩く山本の子分が急に俺に指を刺して何かを言った。俺は大音量で音楽を聴いていた為、何を言っているのか分からなかった。嫌な予感しかしない。とりあえず無視するのは不味い事だけは分かっていたのでイヤホンを外した。

「コイツだよ。あの、殺人鬼を殺した奴は」と取り巻きが言った。

 不味い。バレたか。多少は予期していたこととはいえ、よりによって山本の手下にバレるとまでは思っても見なかった。

「なんだ、その殺人鬼て?」

「あれだよ、4年前に稲戸で起こった連続殺人事件だよ」

「ああ、あの事件ね。コイツが殺人鬼を殺したのか?」

「そうだよ。ネットで写真を見たから本当だよ」と子分。

 山本は俺をチュッパチャプスを舐め回すようにして見た「コイツが犯人を殺しただって?こんな弱そうな奴が。信じられない」

「間違いないってほら」と子分はiPhoneでネットで回っている俺の当時の写真を山本に見せた。

「確かに似ているな」

「お前、名前は確か桐谷だよな?」と子分が言った。

 俺はどうして良いか分からなかっった。自分ではないと嘘をつけば必ず標的に合う。自分だと言えば変な注目を浴びるか標的にあう。これは賭けだ。後者を選んだ。

「はい、自分です」

「へえ、マジかよ。お前が相当強いのか、それとも殺人鬼が相当弱いのかのどちらかだな」というと、山本は俺の腹に突然パンチを喰らわせた。俺はあまりの痛さにお腹を抑えて膝をついて崩れた。

「なんだ、殺人鬼が弱かったってことだな」と山本が言った。

 瞬間的に俺は山本を睨んでしまった。

「お、コイツ俺を睨んできた。思っていたより根性があるな」と言って今度は俺を蹴り飛ばした。足は顎にあたり、歯が振動し抜けるのではないかと思うほど強かった。そして、そのまま倒れ込んだ。

「なんだ、弱いじゃん」と山本は俺に顔を近づけた。「なあ、殴ってすまなかった。何か言われたら階段で転んだっていうんだぞ。頭の良いお前ならわかるだろ。な?」

 俺はあまりの痛さに口が動かなかった。

 山本はビンタを喰らわせた。「なあ、返事は」

 俺は力を振り絞って言った「はい」

 それから、学校で地獄が始まった。まずは、ただでさえ学校に馴染めなかった俺を皆んなが無視をし始めた。それは俺が殺人鬼を殺したことを知ってしまったからか、それとも山本に目をつけられたからか、その両方かは分からなかった。だが、元々クラスの連中とは距離を置いていたので大した問題ではなかった。

 次に、山本の嫌がらせは続いた。山本と廊下ですれ違う度に腹を蹴られるようになった。それも、毎日だ。そして、イジメはどんどんエスカレートしていった。カツアゲにもあった。俺はそのうち銀行にあるお金まで取られるのではないかと不安になり貯金を全部引き出して勉強机に隠した。外へだけける時はジャックパーセルのスニーカーのインソールを外して、その中にお札を入れた。財布には出来るだけダメージを少なくする為に毎日500円を入れることにした。そして、毎回5000円が無くなっていった。

 誰かに相談しようと思ったが、ことを荒立てるだけだ。ここの先生は皆んなポンコツだ。助けを求めた所で何もしてくれないし事態が悪化するのは容易に想像できた。

 そのうち、山本に殺意を覚えるようになっていた。奴を殺したいと。

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