学校の終わるチャイムが鳴った。俺は急いで自転車置き場に向かい自転車にまたがて、ケーブルテレビで観た「大脱走」のスティーブン・マックィーンのように校門を逃げるようにしてくぐり抜けた。とにかく学校が嫌いだ。特にこの高校は最悪だ。家からは遠いし、不良グループはいるがイジメは横行している。まるで地獄だ。今は目を付けられていないが時間の問題だろう。不良グループもイジメ子グループもプレデターのように常に次の獲物を探し回っている。自分が獲物にならない自信がない。なので、学校では一切の余計な言葉を発する事なく、人付き合いも最小限にしている。そのほうが気が楽だ。なぜこの学校を選んだかというと自分の知り合いがいないからだ。事件について、ああだこうだ言われたくなかったからだ。事件のことを言われると嫌でも思い出してしまう。もう、忘れたい。

 学校を終えると5時から9時のコンビニのバイトだ。接客業が自分に向いていないと気が付かせてくれるバイトだった。接客は大変だ。毎回性格の違うお客が来ては、クールに接する時もあれば、イチャモンをつけてくる客もいた。常に、臨機応変に立ち振る舞わなければならない。しかも、レジ打ちだけならまだしも、レジ横のホットスナックを作ったり、郵便の配送、チケット販売までしなくてはいけない。かなりの重労働だ。本当は辞めたいけれど、他に高校生ができるバイトは限られている。仕方ないので惰性でやるしかない。

 バイトを終えると、家に帰って夕飯を食う。菅と夕飯の時間が違うのが唯一の救いだ。

菅はコロナパンデミックの終息と共にリモート勤務がなくなり夜遅くまで家に帰ってこなかったのですれ違いの生活を送っていた。とても喜ばしい事だ。アイツの顔を見れない日はラッキーディだ。

 夕飯を済ませて部屋に行き、中古で買ったMacBookAirを開いてネットでYouTubeをみたり、エレキギターとAKAIのMIDIキーボードで曲を作ったりした。

 ギターは父が中学2年生の時に買ってくれたFenderJapanのMustang。本当はJazzmasterが欲しかったが、高かったのでMustangで我慢したが良いギターだ。小ぶりで弾きやすく、綺麗な音がして歪ませるとじゃじゃや馬のように暴れ出す。ニルヴァーナのカートコバーンとキング・クルールとソニック・ユースのサーストン・ムーアも使っている。アームを使うとチューニングが狂うのが欠点だが、そこも含めて憎めないギターだ。本当は軽音楽部でバンドを組みたかった。ニルヴァーナ、キング・クルール、スティーヴ・レイシー、テーム・インパラ、トロイモアをミックスしたようなバンドを。だが、うちの学校の軽音楽部にはJ-POPかヴィジュアル系のバンドしか居なかったため、入部してからすぐに辞めた。嫌いな曲を演奏するのが嫌だったからだ。それに、スティーブ・レイシーは1人で、しかもiPhoneで曲を作っていることを知り、MacBookAirならもっとすごい曲が作れるのではないかと思い、1人で曲を作ることにした。結果はどうだって?自分は天才ではない事がわかった。YouTubeで曲をアップしているが再生数は2桁を超えることはなく高評価も低評価も付かないままYouTubeの海で遭難していた。

 まあ、あの時に比べたらだいぶ良くなっている。事件に巻き込まれてうつ病になった時のことを考えれば、まだマシだ。

 今は月に1回、心療内科に行って抗うつ剤を処方されて気分は楽になった。抗うつ剤を飲むと気分が高まった。副作用で授業中に眠くなることも、暫しあったが大した授業ではないし、先生も周りも気にしていなかったので大した事ではない。

 このまま、小さな嫌な事があっても普通の生活を送れると思っていたが、ある日風向きが変わった。

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