第5話 究極の鉄女

 それから数ヶ月たって、ちらほら幽霊話が出てきたが、誰も話までした者はいない。撮った写真を見てみると、顔はやっぱりわからないが、体のバランスは彼女と似ていた。しかし誰かが「明治、大正時代の日本女性にこのスタイルはいないでしょう」という意見はもっともで、R君は、自分の経験を誰にも話さずに過ごしていた。


 その日は、雨が0%と言う事なので尚更乗客は多かったのだろう。R君はあの時と同じ電車で帰ることにした。まだ日は高い。目撃例は夜中が多く、最終電車というのもあったらしい。それが尚更恐怖と興味をそそったのだろう。そして同じようにあの駅に着いた。

「帰ろう、夜中まで持たないよ、熱中症になる」多くの人間が暑さに耐えきれずに電車に乗ってきた。R君は最後尾付近にいて、ゆっくりと発車する電車の窓から、さっきまで人が寿司詰めに座っていたベンチを見つめた。

「あ! 」R君の小さな声が漏れた途端、

「いる! 白いワンピースドレス!! 」乗客達が騒ぎ出し、R君は気が付いたら今度は自分が寿司詰めになっていた。全員がスマホを片手にしている。

「さっきまでいなかったよね!! 」写真を撮れない場所にいる女の子は怖いと言うより興奮気味の声をあげた。

「撮れた? 」「多分! 」「動画! 見てみて!! 」「わあ! 白いドレスの女の人だ!! 」「手の振り方がお嬢さまっぽい! 」

若い人達の騒ぎように、カメラを持った大人達もちょっと寄ってきた。

「見て下さい、カメラ詳しいですよね、これどうでしょう? 」初めて会った若い男から聞かれた男性は、落ち着いた感じで

「きれいに動画が撮れているね、確かに白いワンピースの女性だ。もし君がこの短い時間で動画を合成できたとしてら・・・」

「え! そんなことはしてませんよ!! 」

「そういうことじゃなくてね、出来たとしたら、君はその仕事で高額を稼げるくらいの技術を持っていなきゃ無理と言うことだよ」

「そう! そうですよね」

「でもいかんせんスマホだ、君は撮っていないのかい? 」

R君に向かってその男性は聞いたが、

「残念ながら」

「そのカメラだったら、顔まで完璧だったのにね」

笑みを浮かべたR君を、そこにいたほぼ全員が「苦笑」と思ったのは、彼には全くもって好都合だった。心の中は実は色々なことが楽しく思い出され、また想像もされ、怖さは、無いわけではないが、もっと大きな愛情のようなものに感銘を受けていた。


「あの白いワンピースは、彼女に本当によく似合っていた。ドレスのように長くなくて、ちょっとだけ裾が広がっていて。彼女もすごく楽しそうに笑っていた。「これは似合うでしょ? 」みたいに」

すると車内では「昼間現れる幽霊って珍しいわよね・・・まだあそこには人が残っていたし」

きれいに撮れているが故に疑問が起こり始めていた。


「そう、幽霊は夜中に現れる、夜中に現れる白いドレスの女性は恐怖をそそる、怖いもの見たさで人が集まる。そうすればこの路線の電車に人が乗りに来る。彼女はそうやってこの路線を守ろうとしたのか? だとしたら・・・・・」

 

究極の鉄女もいるものだと、R君はまた笑った。  

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