第4話 会話
「ありがとうございます、この服は私が幼い頃亡くなった母のものなので」
真横に座ったR君は、思った以上にこの女性が「若いこと」に驚いていた。立ち居振る舞いが上品なので貴婦人と思ったが、彼女は少女でも婦人でも無い。年の頃は自分とほとんど同じではないかと思った。
「私には似合わないでしょうか、このドレスは」
急にそう聞かれたR君は
「いえ・・・その・・・似合わないとは思いませんが・・・あ! 」
失敗したと思った。女の子とそう長く話したことのない自分でも、この言葉は、特に最後の「が」は全くの余計だった。
「ウフフフフ、正直な方」彼女は口に手を当てる仕草をしたが、微笑みには全く嘘がない気がした。その伸ばされた指は白く長く、爪まで美しく、また明らかな特徴があった。
「鉄女の典型の手ですね」
「鉄女? 」
「鉄道好きの女性のことです。薬指が人差し指より長い、女性は珍しいそうですが、鉄女にはそのタイプが多いんですよ」
「そうなのですか。 私ここまで列車に乗ってくることが大好きだったのです。岩場の松を見るために、ばあやが困るほど窓から身を乗り出してしまって」
言葉の端々から不可解さは見られるものの、彼女の表情は明らかに、さっきよりも生き生きとしていていた。R君の心の中に、もちろん怖さはあったが、楽しそうに話す彼女は、今の若い女の子と、極端に違ったものはむしろ感じられなくなった。
しかし遠くから電車の音が聞こえてくると
「ありがとうございました、本当に楽しゅうございました」
彼女は立ち上がり、飾りバネの帽子を深々とR君に向かって下げた。
「どうぞお写真を」と言ったので、R君は勧められるがままにやって来た電車にシャッターを切りはじめ、ふっと横を見ると、もう誰もいなかった。
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