第3話 本物
ホームのベンチから立ち上がった女性は、小さな、日よけにはならない羽のついた帽子をかぶり、極薄い茶色の長い細いドレスを着ていた。そのドレスにレースがあるのも見て取れて、男のR君でも、決して安価ではないし、今のものでもないとわかった。
微笑んだ女性は、遠目から見てもそれは美しかった。いかにも上品で今まであった誰よりも「貴婦人」という言葉が似合う人だった。華奢な感じではあるが体のバランスも素晴らしく良くて、蒸気機関車のC57をそう呼んでいることを、改めて教えてくれるような人だった。
「何かの撮影? TVのドッキリ? 」
幽霊を全否定するわけではないが、単純に信じたくないR君は、頭の中で必死に考えていた。撮影ならばスタッフがいるはず、だがどう見ても誰もいない。ドッキリだとしたら、自分は若いから可能性は低いが、年配の鉄道ファンがターゲットになったら、知っているが故に心臓発作等を起こしかねない。
いろいろと考えてはみたが、男の性なのか、その、不可思議な美しい人のところに、R君は自然と足が向いた。ホームについてベンチから立ったままの彼女に、挨拶代わりのあの羽を渡した。
「ありがとうございます」
日本髪の櫛よろしく、彼女は帽子に羽を刺し直し、そうして、ドレスを整えるようにベンチに座った。彼女は首をかしげ、ゆっくりとR君を見たので、R君も座ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます