第3話 本物

 ホームのベンチから立ち上がった女性は、小さな、日よけにはならない羽のついた帽子をかぶり、極薄い茶色の長い細いドレスを着ていた。そのドレスにレースがあるのも見て取れて、男のR君でも、決して安価ではないし、今のものでもないとわかった。

微笑んだ女性は、遠目から見てもそれは美しかった。いかにも上品で今まであった誰よりも「貴婦人」という言葉が似合う人だった。華奢な感じではあるが体のバランスも素晴らしく良くて、蒸気機関車のC57をそう呼んでいることを、改めて教えてくれるような人だった。

「何かの撮影? TVのドッキリ? 」

幽霊を全否定するわけではないが、単純に信じたくないR君は、頭の中で必死に考えていた。撮影ならばスタッフがいるはず、だがどう見ても誰もいない。ドッキリだとしたら、自分は若いから可能性は低いが、年配の鉄道ファンがターゲットになったら、知っているが故に心臓発作等を起こしかねない。

 いろいろと考えてはみたが、男の性なのか、その、不可思議な美しい人のところに、R君は自然と足が向いた。ホームについてベンチから立ったままの彼女に、挨拶代わりのあの羽を渡した。

「ありがとうございます」

日本髪の櫛よろしく、彼女は帽子に羽を刺し直し、そうして、ドレスを整えるようにベンチに座った。彼女は首をかしげ、ゆっくりとR君を見たので、R君も座ることにした。

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