【短編】今日も君がいる
奏流こころ
今日も君がいる
「おはよう、
「おはよう、
ポニーテールがトレードマークの藤宮さん。
柔らかな笑顔が可愛い、クラスで3番目に人気の女子である。
席が隣同士になってから、挨拶をするようになって、一言二言のキャッチボールは、今はというと。
「今日なんだけど、この宿題で」
「うんうん」
よく話すようになっていた。
自然な流れで、今に至る。
「東藤君、ここなんだけどさ」
「あー、これはね」
互いの宿題を教え合う一時は、朝のホームルームが始まる1分前まで続いた。
※
「好きな人いないの?」
「急にどうした?」
私の親友である
昼休み、ご飯中、口の中には食べ物や飲み物はなかった。
口の中にまだあれば、吹き出していたに違いない、危なかった。
「なんとなく?」
とぼけた顔で陽夏美は言う。
「何それ」
可笑しくて、ふふっと笑う。
「ねーねー、本当にいないの?」
「そういうあんたはどうなの?」
「えへへ」
頬をほんのり赤くして、照れだした。
あっ…これはいるな…。
「実はさ~」
陽夏美は照れながら恋のお相手について、楽しそうに語り出す。
その人は、隣のクラスの男子で、部活には所属していないガリ勉タイプだそうだ。
ある日の放課後、曲がり角に差し掛かった時にぶつかったのだそうだ。
その時に陽夏美は運んでいたプリントが散乱してしまい、パニックを起こして、相手に謝るよりも先にプリントをかき集めた。
集め終えると。
『これ、どうぞ』
『あ、ありがとう、ございま…』
プリントを受け取って、顔を上げて相手を見ると、その男子だった。
『ごめんなさい、ごめんなさい!』
必死に謝った陽夏美。
『いやいや、俺もごめんね』
苦笑していた彼は大丈夫だよと、安心させるように優しくした。
『気を付けてね』
『はい、本当にごめんなさい!』
「申し訳なくて、恥ずかしくて、名前聞かずに走って逃げたんだけどね」
「それで、どうやって特定出来たの?」
「手当たり次第、教室覗いて見付けた」
「ストーカー」
「違うもん!」
よく他クラスを覗けるなと、さすが親友と思った。
「見付けた後、声かけた?」
「まだ…」
「意気地無し」
「ううっ」
曲がり角での驚きが、相手を見たらトキメキに変わる…良い恋だなとふと思った。
「私が呼び出そうか?」
「それは嫌!自分で頑張る!」
そこは頑固なんだよな、この子。
でも、そういう所、好きだな。
「頑張れ」
「頑張る!」
親友の恋を応援出来るって嬉しいなと思った。
「話がすり変わってる!」
「気付いたか」
「もう!」
恋かぁ…。
そんなの、あるわけ…。
「
東藤…君…なんで…。
「ねえ、千夜風?どうしたの?」
「あっ…!」
我に返る。
動揺してしまい、意識が遠くにいっていた。
「な、何でもない」
「いるな、これは」
「ぐふっ」
「マジで?」
陽夏美はニヤッと笑い、いじりたいという顔になっている。
「陽夏美、いじるのは早い、まだよく分かんないから」
「え?」
そう、分からないのだ。
本当に、好きなのかどうか。
考えたら、たまたま浮かんだのが東藤君なわけで。
たまたまなら、本当ではない可能性はある。
確信はない。だから、断定はしない。
「なんだ、分かんないなら、ダメだ」
「うん」
「本物になったら教えてよ」
「うーん、いじらないなら?」
「えー、いじんない、応援するからー!」
そんな会話を楽しくした私と陽夏美。
親友は本当に面白い。最高だ。
※
放課後に藤宮さんと一緒に委員会の仕事をやって、今は下校中である。
「送ってかなくても大丈夫なのに」
「暗いから危ないよ」
「ありがとう」
夕方までには終わると思っていたら、次から次へと仕事が増えてしまい、18時になっていた。
だから、彼女を送ることにしたのだ。
並んで歩く。彼女に合わせてゆっくりと。
冷たい風が緩やかに吹く。
緊張していて体温は高めな自分には気持ちが良い。
「東藤君」
「どうしたの?」
「寄ってかない?」
藤宮さんが指差した方にあったのはコンビニ。
「良いよ」
「じゃあ行こっか」
女の子と初めて入ったコンビニ。
1人でよくコンビニに行くのに、なんとも思わない場所なのに、少し緊張が高まる。
藤宮さんはポテトチップスを1つとお茶を買った。
俺は缶コーヒーを買った。
コンビニを出て、また家に向かって歩き出す。
「このお菓子、弟が好きでね」
「そうなんだ、喜んでくれると良いね」
「うん」
弟さんがいるのか、知らなかった。
「東藤君は兄弟は?」
「大学4年になる姉がいるよ」
「へぇー!」
連絡をすっ飛ばして突然帰省して、アパートに帰ってしまう姉ちゃん。
当たり前になっているため、いつ帰省しても良いように準備はしてある。
「美人なのかな」
「どうかな」
「ふふっ」
家族について話すのは初めてだから、少しむず痒く感じる。
「あっ、ここを曲がれば着くから」
「分かった」
たった30分の下校は終わった。
「また明日ね、東藤君」
「また明日、藤宮さん」
パタパタと軽やかに走って行ってしまった彼女の背中を見送った。
いなくなると、寂しくなるものだな。
※
次の日。
早く学校に到着する。
教室には誰もいないー…と思ったら。
「おはよう、東藤君」
「藤宮…さん…」
彼女が先にいた。
ずっと寂しかったから、一目見てホッとし、あたたかい気持ちになる。
「おはよう、藤宮さん」
笑顔の可愛い彼女は、今日も隣にいる。
※
帰りはドキドキし過ぎて、曲がり角を直ぐに家は嘘。
本当はもっと先、遠回りして帰宅した。
耐えられなかった。
昼休みに陽夏美が変なことを言うから意識してしまった。
でも、別れた後、何故だか寂しくなった。
だから、今日は早く学校に行った。
なんとなく、彼も早く来るんじゃないかと思って。
待っていたら、ビンゴ。
一目見て、とても安心した。
今日も、気になる彼は、隣にいる。
【短編】今日も君がいる 奏流こころ @anmitu725
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