第18話 大きな声で

***18***


 病院の玄関を入ると、駐車場わきにある緑の庭先にベンチがあって、おおかたの予想通りイアラちゃんがいた。

「イアラちゃんて、あの子?」

 あ、由美は初対面か。

「そうだよ」

「隣にいるのは? 例のナイトくん?」

 げ。あいついるのぉ。眉をひそめてたら、見つかっちゃった。

「あ、くそばばあ! また来やがったな」

 彼の暴言にも由美は平然。私が引き下がろうとすると、がっしり二の腕を彼女につかまれた。動けない……。

「少年よ、その息するような悪態は、直さないと社会に出てから大変迷惑よ」

 と由美。もっと言っちゃえ! もっともっと!

「オレは社会になんて出ないからいんだ!」

 そんなわけにいかないでしょうよ。何言ってんだこいつ。でも、ちょっと聞いてみる。

「なんか事情でもあるの?」

 裏の事情が。

「へっ、誰がおばはんなんかに!」

「あるのか。そうか」

 私が深く頷くと、少年がパッと髪の毛を揺らして、松葉杖を片方持ち上げてこちらへ向けた。

「しっしっ」

 こらっ。

「オレんちは金持ちなんだ、だから一生働かなくてすむ。イアラを嫁さんにして、一緒に暮らすんだ!」

「おやまあ!」

 なんか、どこかで見たことあると思ったら、選挙ポスターの誰かに似てる。親せきか何かかな。けど、こうなったらもう、私、言っちゃう。

「若い時の決断ほどあやうく儚いものはないの。若くして結婚すると、理想と現実の乖離に苦しんで、離婚する率が高いんだから」

「オレはそうはならない」

 言い切るなっつの。

「イアラちゃんはどう思ってるのよ」

 ベンチにいる彼女を見たら、瞳を潤ませて微笑んでいる。

 まあ、これも青春てやつ? あーもー、好きにすればいいわ。

 由美が私とパートナーになってイアラちゃんを引き取るのにくらべれば、ねえ……?

 けど、これだけは言っておく。

「人間は犬や猫と違うんだからね!」

「イアラはオレが護るんだ! あんたみたいな無神経が服着て歩いてるようなおばはんに、傷つけさせない!」

 くそっ、言いかえされた! やっぱり声が大きいな、こいつ。

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