第16話 真相開示
***16***
「それが真相か」
「裕司さんはひどい。お金もないのに、おかずが一品だけなのはなにごとか、有り金でもへそくりでもはたいてカマンベールと生ハムを買ってくるまで帰ってくるな、そう言って私たちがマンションを出たら玄関に鍵までかけて」
「タラの芽は? 察するに家族分はあったんでしょう?」
「そんなの全部食べてたから、そのままお母さんのところへ転がりこんだわ」
「窓を開けたのね……」
「そうしろって言われたから」
で、翌日になって西条裕司は全裸死体でマンションの前で発見されたと。
ハシリドコロの中毒症状は食してから一時間から三時間後にあらわれる。おそらくそのとき、西条裕司は入浴中だった。走り回ってきょう乱して開いた窓から飛び出して――。
そこでリアラはきょう気のように笑った。
「すっぱだかよ? 手足が酔っぱらったようにぐでんぐでん。あまりの変わりように言葉もなくて――」
そして、彼女はくたびれたように背もたれに体を預けて、天井をにらんだ。
「殺して」
目をつぶるリアラ。
「もう、殺してよ――」
かなり疲れている様子だった。
「無理ね。あなたが死んだら、イアラちゃんはどうするの」
「児童保護してもらう」
それでいいのか?
「罪は罪として」
由美がおっぱじめた。
「怒りはごもっとも」
リアラはかくん、と頭だけうなだれた。
「もう、疲れたよ」
見りゃわかるわ。あれだけ語って、あれだけ泣けば。
「同情します」
すん、とリアラは鼻をすすった。
「だけどあなたは、報復してやった」
「……うふっ」
うなだれてた頭をはっしと抱えて肩を震わせている。
この人、吹き出しちゃった。情緒不安定だな。
「あなたは自分の人生を取り戻したの」
リアラは瞳を輝かせて前を見た。
「かわいい一人娘もいる。あなたはまだ女ざかり。他にもいっぱい楽しいことがある」
がばっと立ちあがってリアラは高らかに言った。
「そうよ! あんな男に縛られる人生なんて、必要なかったんだ」
由美がジッと見上げて両手を組んだ。
「……同情します」
救急車、呼ぼうか迷うなあ。
「必要のない苦しみを自ら背負うことない。私には未来がある。未来が……」
リアラはそこで、前途にがけっぷちが潜んでいることに気がついた。と、予測する。
「どうしよう。私、人殺しになっちゃった。裕司さん、殺しちゃったんだ」
お先真っ暗だ。
「それでも、人は歩んでゆかねばならないんですよ。北園さん」
うまい具合にまとめようとしてるな、由美のヤツ。
「で、西条姓は名乗らないの?」
最後に余計なこと言ったな……。
「私は西条リアラ。夫を愛していた時もあった。でも娘にあの男の、西条の名を継がせたくない。だから、北園姓に戻した」
「わかりました」
由美は私を目で示して、後を引き継がせた。うーん。
「どうしようかな」
何となく口に出してしまうと、リアラが初めて私の手元に目をやった。
「これ、削除した方がいい?」
と、見せる。スマホの録音は二時間ドラマを越えていた。
「長かったね、リアラさん」
彼女は二重の意味で理解したらしい。「ゴメナサイ」と小さくつぶやいて、自首をする、と言った。
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