第11話 悪夢

***11***


「……ということらしいです」

「ご苦労さま、ホワミー」

「英美さんて、オネエだった……」

 由美は知っていたみたい。玄関先で名刺を見たんだって。コルクボードに貼ってあったらしい。それと、美容グッズの山と敷きっぱなしの布団、化粧品だらけのドレッサー。なのに、靴は男性サイズだった……イアラちゃんの教育的にどうなんだろうって気はする。しょっちゅう遊びに行ってたんでしょ。

「中学生なら、意外とすんなり受け入れるのかもね」

 由美は受け入れられないようだったけど!

「私は臭いがだめなのよねー」

 私だって、シーブリーズの香りさせてる青少年が好きだわ。歯なんか真っ白で、なんならちょっと日に焼けてて笑顔がまぶしいスポーツ少年がいいわっ!

『管理人は五年前に新しくなった』っていう情報もあったんだけれど、これは言うべきか……。

「このメモなんなの。ミミズがのたくってる。なんでスマホにしなかったの」

「聞き取ったことをトイレでメモったから。いいじゃん。私に読めればいいんですぅ」

 えへんと胸を張って、さきほどの情報を渡す。

「へえ、五年前に、やけにいろいろ重なっているのね」

「花壇もそのころできたんだって。管理人の藤岡正美が直接植えたらしいよ。なのに、なんでハシリドコロを知らないなんてごまかす?」

「やましいところがあるんじゃないかしら?」

「そう、思いますわよねえ?」

 私たちがうーんと腕組みして考えるふりをしていると、突如雨がパラついてきた。

「ん! まずいよ。ちょっと車まで急ごう、ホワミー」

「運転するのは私だけどね」

 まあ。お酒はノンアルコールにしたし、場に酔っちゃっただけだから、少し風にあたっていけば運転はできる。

 けどなんか、由美にはちょっと言いたくなるのよね。ちなみに由美のいう車っていうのは由美のお母様のラパンだ。ピンク色でかわいいんだ。

「で? なんで仲良しのそのひとみさんが、イアラちゃんの自殺を疑ってるっていうの?」

 事故という線だってあったのに。初めて出会った時、伊藤英美……ひとみさんは「自殺?」と聞いた。なんかのおぼえがあったってことだ。

「さっき店の中でググったけど、五年前のお父さんのことが関係してるんじゃないのかな」

「それは事故という話だったはずよ。なんで娘がその事故現場で自殺なんてするの? 脈絡がどうもおかしいでしょ」

 いや、まあ。それはそうね。

「事故が事故でなかったら、話は別だけれどね」

 私がそう言うと、由美は黙って頷いた。同じことを考えていたらしい。

 私たちはあえて遠回りをして、由美んちとは真逆の方向にある『ウィリデ荘』の路肩にラパンをつけた。

「あ、藤岡正美? 帰ってるみたいよ。管理人室に灯りがついてる」

「だったら明日あたり、また私が行って……話が聞けるかも」

「今行こう」

 えげつないな、この推理オタクが!

「なんで今この時に、面識もない『自称・探偵』がご近所のマンションに特攻するのよ! もっと考えなさい」

「今しかないわ」

 なんでっ。

「勘が言うの」

 そんなのあんたが物見高いだけでしょう!

「ちょっとだけ、雨宿りさせてくださいって言えばいいのよ」

 そんな手……。

「まあ、なんにも考えてないよりましだわ」

「そんでもって、伊藤英美の勤め先で事件を聞いたと言えばいいわ」

「まて! それでは直截すぎて、身構えられるわ。別の世間話になさい」

「話したがってるかもしれないじゃない。聴いてあげましょうよ」

 あんたのそれは尋問よっ。

 だけどやっぱり止めきれない。ああ、悪夢だ。どうしよう、どうしたら……。

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